ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

小説の描写に《動き》を与える方法

「小説の描写に動きがほしい!」と思ったときは、以下の2つを意識しましょう。

  1. 結果ではなく過程を描くこと
  2. 動作を分割すること

ここでは私の書いた文章を「悪例」、実作品の描写を「好例」として、比較しながら解説していきます。まずは描写がのっぺりとしている「悪例」から。

悪例1

彼女はテーブルの上に置かれていた箱から、銀色の輪っかを取り出した。(例文)

上の文章では「女性が箱から輪っかを取り出す」という結果を書き急ぎすぎています。読者に情報を伝えることは大切ですが、情報開示はワンテンポ遅らせるのが秘訣です。

プロの小説家は、次のように描写します。

☆好例

彼女は、テーブルの上に置かれていた箱を引き寄せ、蓋を開いた。中の透明なビニール袋を取り出す。袋には銀色の金属製のわっかが入っていた。

(引用『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』梶尾真治/光文社)

「箱からわっかを取り出す」という動作を「引き寄せる」「蓋を開く」「ビニール袋を取り出す」の3つに分割しています。ここにリアリティと動きが生まれます。

はっきり言って、いちいちこのような細部を意識して描写するのは(書き手としては)面倒に感じる作業です。だからこそ、ただ何となく楽に楽にと思考のままに書いているだけでは、上記の描写はできません。

名文ではない、一見して何の変哲もない描写にこそ、工夫が籠められています。

悪例2

彼女は、木目調のテーブルの上に置かれている黒の高級そうな箱のロックを外し、中からジッパーで密閉されたビニル袋を取り出した。袋のなかにはステンレス製だろうか、直径十センチほどの銀色のわっかが入っていた。(例文)

別の悪例を書いてみました。

過剰描写の例です。読者に伝える必要のある情報以外の描写に力を入れると、途端にリーダビリティが落ちます。

動きを出すのが目的であれば《行動描写》のみを分割してみることが大切かもしれません。

悪例3

彼女は箱の中から銀色のわっかを取り出した。その時点で俺には嫌な予感がしていた。囚人にとって《輪》とは、手錠や足かせをはじめ、拘束具を意味する。では目の前のリングは、その大きさから鑑みて首に着用する首輪ではないのか。俺は恐怖にわなないた。(例文)

心理描写を付け加えた例です。心理描写によって、先の展開のネタバレをするのは、まずやらない方が良い(ベター)です。

「箱から取り出した輪っかをどう使うのだろう?」という好奇心が読んでいる最中に生まれ、それが読者にとっての推進力となります。意図的にミスリードを誘うのならまだしも、下手な《予測》を心理描写中に入れると読み進める楽しみを奪ってしまいます。

読ませる描写において「情報を待機させる」という考え方は非常に重要なポイントとなります。(小説に限らずセールスレターやコピーライティングの世界でも、情報待機のレトリックが用いられます)

「動作を分割させる」をもっと詳しく

他作品の例も挙げてみます。

私は墓地の手前にある苗畠の左側からはいって、両方に楓を植え付けた広い道を奥の方へ進んで行った。するとその端れに見える茶店の中から先生らしい人がふいと出て来た。私はその人の眼鏡の縁が日に光るまで近く寄って行った。そうして出し抜けに「先生」と大きな声を掛けた。先生は突然立ち留まって私の顔を見た。

(引用『こころ』夏目漱石/青空文庫

結果だけを描くのであれば「墓地近くの茶店で先生を見かけたので声をかけた」の一文で事足りる。それが小説となると(上の文章の場合)146文字まで引き伸ばされるわけです。

「先生に声をかける」の結果に至るまでのプロセスとして、「苗畠に入る」「道を進む」「茶店から先生が出て来る」「近寄る」と分けて分けて描写する。しかも決して無意味な情報の羅列ではなくて《私》のストーカー気質な性格だとか、先生の暗い過去を匂わせる《墓地》というキーワードだとか、いろいろと仕込まれている。

さらに細かいことを述べると、上記の描写は「手前から奥へ」視点をフォーカスさせることによって動きを持たせています。

  1. 苗畠(手前)
  2. 両方に植え付けられた楓(少し奥)
  3. 端れに見える茶店(最奥)
  4. →先生に寄っていく(再びズームイン) 

「手前から奥へ」の順序で描写する手法を序次法(じょじほう)といいます。小説の基本テクニックのひとつですので、覚えておくと役に立ちます。序次法については次記事で詳しく解説をします。

描写では(動作の主体となる人物の)視線の動きを意識して描くと、格段に良くなります。基本は近くから遠くへ。

午後の三時頃で、冬の日が、お庭の芝生にやわらかく当っていて、芝生から石段を降りつくしたあたりに小さいお池があり、梅の木がたくさんあって、お庭の下には蜜柑畑がひろがり、それから村道があって、その向うは水田で、それからずっと向うに松林があって、その松林の向うに、海が見える。海は、こうしてお座敷に坐っていると、ちょうど私のお乳のさきに水平線がさわるくらいの高さに見えた。

(引用:『斜陽』太宰治/青空文庫

「いい景色だった」で終わるところをここまで分割して詳細に描くのが、小説の技法です。これもやはり「手前→奥」へと視線が移動していきます。

芝生→石段→池→蜜柑畑→村道→水田→松林→海へと、奥へ奥へ。風景そのものは一枚画として写真にも収まるものでしょう。しかしこのように手前から奥へと順番に進んでいくことで、映画やアニメのような動きを持った情景描写となります。

それにしても、太宰治はなかなか描写が色っぽいんですね。人間失格が代表作として語られていますが『斜陽』『パンドラの匣』『女生徒』『グッド・バイ』あたりを読むと印象が一変しますよ。

まとめに入ります。

  1. すぐに結果を描くのではなく、まずは過程を描く(情報を待機させる)
  2. 動作を分割させる(輪を取り出す→箱を引き寄せる/蓋を開く/袋を見せる) 
  3. 視線を分割させる(手前から奥へ ※視線分割の技法は、次記事の序次法のところで詳しく書きます)

『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』のレビュー

今回、最初に引用に用いた作品『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』(梶尾真治 著)について簡単に感想を書こうと思います。


ボクハ・ココニ・イマス 消失刑

『消失刑』というのは、簡単に言えば受刑者を透明人間にしてしまう刑罰のことです。消失刑を受けると、受刑者は誰からも姿を視認されなくなり、会話や文章によるコミュニケーションはおろか、人に近づくことさえできなくなってしまいます。

そのうえ、(刑罰なので当然ですが)銭湯で覗き見するなどの犯罪行為はできないようになっていますし、テレビなどの娯楽も禁止されます。

このような「対象をぼっちにする!」刑罰である消失刑を受けた主人公を軸に物語が進みます。作品全体のテーマは《孤独》です。

書き手視点から視たすごいところ

本作は『主人公は誰ともコミュニケーションを取ることが許されず、一切の(エキサイティングな)犯罪行為を取ることができない』という設定を守って書かれている、ある種のシミュレーション小説です。

これ自体が、すごい。

小説とくにエンターテイメント小説は、どんな形であれ、主人公のコミュニケーションによって物語が進みます。《コミュニケーション禁止》の縛りはなかなかに、書き手としてはきつい。大変難しい。

透明人間になってエロいことができるならともかく、本作の主人公はそもそも他者の半径一メートル以内に近づくことさえ許されません。そんな、他者と一切の接触を禁止された状態で、どうして話が進展していくのか。

人間関係を描くことで《孤独》を表現するのは難しくありません。いじめだとか、仲間の裏切りだとかを描きます。しかし、他者からその存在そのものを無視される《孤独》を長編原稿で書くのは、うむぅ……何とも骨が折れる。

コミュニケーションのない小説なんて、ふつうに書いていて面白くなるはずがない。それを最後まで読ませてしまう筆力は評価されるべきだと感じます。

(終わり) 執筆・改稿/海鳥まき ※旧筆名オロロン

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ホラ吹きの語る《希望》は…(はてな題詠「短歌の目」第11回9月)

はてな題詠、参加はこれが2回目となります。第二期スタート、とても嬉しいです。

今回のテーマは「秋」ですね。肌寒くなってくると心なしか憂鬱になったり孤独を感じたり、そんなときこそ短歌を詠みませう! 

 

1. 星

承認に飢えし星喰いブクマする スターください! 紫スターで!

 

2. 吹

ホラ吹きの語る《希望》は虚構だが命を救うプラセボもあり

 

3. はちみつ

人生は甘くないとか言う奴にぶっかけてやれハチミツの壺

 

4. 川

川の字になって寝ている三角の恋にもつれた男女三名

 

5. 秋刀魚

リスカする私を見てる秋刀魚の眼 死んだサカナと死にたいワタシ

 

テーマ「秋」(5首)

 

6

「恋がしたい」ポテチを食べてソファに寝て 秋アニメ見て想う夜更けよ

 

7

残業を終えた靴先山へ向く 冬眠したい クマになりたい

 

8

足元に落ちた紅葉とアスファルト 黒いスーツが似合わぬ自分

 

9

真っ白のシーツかぶってダンスする ハロウィンの夜わたしはひとり

 

10

明日から本気を出すと決意して 十ヶ月経ち気がつけば秋……。

 

ありがとうございました。

 

前回詠んだ短歌

 

(終わり)

報われない無垢な努力を迎え入れる

努力が報われないと感じることが多々ある。

本当に、このまま頑張ってもうまくいくのだろうか、徒労に終わるのではないか。

そんな心の囁きが、やる気を根こそぎ奪ってゆく。

 

いろんなことを言う人がいる。

「報われない努力なんてない。行動には必ず結果が伴うんだ。因果応報!」

「努力が報われないなんて思っているうちは、まだ甘い。それは本当の努力じゃないんだぜ」

「下手に努力に見返りなんか求めない方がいいよ。裏切られるから」

どれが正しいのだろうか?

 

でも、よくよく考えてみれば、100%報われる完璧な努力というのも存在しないし、逆にまったく結果が返ってこない0%の報いというのも無いような気がする。

イチかゼロかのデジタルではなくて、もっと曖昧な関係が「行動と結果」の間にはある気がするんだ。

 

努力が報われないものだと感じるものの、完全に報われない完璧な努力も存在せず、結局のところ68%の努力で35%報われた的な、中途半端な行動と結果の現実を受け入れつつも、前に進んでいかなければと思った。

 

【終】

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の幸福論

私はアイ。

ロールプレイングゲーム王国に住む、14歳のNPC (non player character)

独自AI (Artificial Intelligence 人工知能)を搭載していて、自分の頭で考えて行動することができるの。当たり前でしょ?

 

この街の人たちは、ほとんどがNPCなの。

みんな幸せに仲良く暮らしているんだよ。モンスターは怖いけどね。

 

ある日、街にユウシャの男の子がやってきた。

でもその人はPC (player character)だったの。

外観はわたしたちと同じなんだけれど、彼は自由意志 (free will)を持っていない。

制御機械の十字キーやA・Bボタンで操られているお人形さんなの。

 

街の人たちは、ユウシャの男の子を哀れんで、とても優しく接するんだよ。

恐れという感情を知らない機械のユウシャでなければ、モンスターは倒せない。

私もその意味では、街の平和を守ってくれるユウシャに感謝しているし、みんなと同じように彼のことを「かわいそう」って思う。

 

でも、本当はユウシャのこととっても好きなんだ。

いつかユウシャにも、私たちと同じココロが宿るといいな。

 

【終】

小説のプロット作成ツール(タロットプロット)を大幅にアップデートしました!|ブログ2周年記念

ときまき!は2016年9月13日をもって運営2周年を迎えました。

これを記念して、小説や漫画のプロットを作るためのアイデアツール『タロットプロット』を大幅にアップデートいたしました。

タロットプロットとは?

タロットプロット

 

初めての方は、ぜひ上のサイトにアクセスしてみてください。

タロットプロットでは、156枚の創作カードを展開し、プロットのアイデアを出していきます。キャラ設定や世界観設定を掘り下げていくのに役立つツールです。

タロットプロットについて詳しくは1年前のブログ記事

でも書いています。去年いくつか挙げていた「改善案」の部分は今回のアップデートでほぼ実現できました。

今回アップデートでの変更点一覧

1.「レスポンシブデザイン」に完全対応

レスポンシブデザインに完全対応し、PC・スマホ・タブレットなどあらゆるデバイスで、全く同一のコンテンツが閲覧できるようになりました。

2.「占い結果のツイート機能」の実装

タロットプロットで占った結果をツイッターで呟けるようになりました。ツイートのリンク先のURLにアクセスすれば、(カード内容が変わることなく)同一の占い結果が表示されます。

URLパラメータを悪用した不正攻撃(クロスサイトスクリプティング)への対策も万全です。パラメータの中身をどのようにいじられたとしても、安全に使えるようにしています。

3.「占い結果ページのブックマーク保存」が可能に

従来版はJavaScriptで処理をしていたため、占い結果を保存する方法が「占い結果コピーフィールドからコピー&ペーストしてメモ帳に貼り付ける」しかありませんでした。

今回、占いシステムの根幹をJavaScript→PHPへと切り替え、占いページのURLパラメータに結果が表示される仕様としています。

URLで占い結果が固定されるので、占いページをブラウザのブックマーク(お気に入り)に登録すれば、いつでも同じ結果を閲覧できます。

例えばスマートフォンから占っていて結果を保存したいとき、ページをブックマーク登録しておけば、あとでPCからも同じ結果を見ることができます。(ブラウザのブックマーク同期をしている場合)

4.「通常モード」と「SPモード」の機能拡充

占い結果を上から順番にリスト形式で読み込んでいく「通常モード」に加え、タロット占いのようにカードをスプレッド展開できる「SPモード」を用意しました。どちらもPC、スマホの双方で使えます。

ちなみにSPモードは(スペクタクル・スペシャル・スプレッドモード!)の略です。通常モードとSPモードは、結果画面でも切り替え可能です。

5.「フリースタイル」の大幅強化

自由にカード展開ができる「フリースタイル」のバリエーションを増やしました。タロット占いではおなじみの《ヘキサグラム展開》や、大塚英志氏考案のプロット作成展開法も、フリースタイルで占えるようになりました。

なお、フリースタイルでの占い方式はSPモード限定となります。

6.「カードリスト」ページの増設

新設した「カードリスト」では、全156種のカードの一覧、およびヒントキーワードを閲覧できます。「Ctrl+F」で気になる単語をページ内検索してみれば、何かしらのインスピレーションが得られるかもしれません。

7.「旧デザイン版タロットプロット」の保管

今回、デザインや仕様を大幅に変更しました。「前のバージョンの方が使いやすかったのに」という声はあるだろうと予測しています。そのため、旧バージョンのタロットプロットをまとめてサブドメインの方に移転しています。

旧タロットプロット( http://previous.tarot-plot.com/ )のページから引き続き従来版もご利用いただけます。

トップページのデザインは旧版の方がお洒落でしたね。その辺りの未練はあります。

所感

去年のブログ記事で

頂いたアドバイスは必ず、今後の改善に繋げます。

と誓ってから早一年。だいぶ遅くなってしまったものの、ようやく実現できて良かったと心底思います。

開発当初はPHPのPの字も知らないくらいで、頑なにJavaScriptですべて実装することに拘っていました。今にして思えば、PHPを使ったほうが、占いシステムを作るのは圧倒的に楽だったのですね。

もっとはやくにPHPを勉強しておけばよかった……。

タロットプロットはマネタイズが目的ではなく(というより毎月1000円の赤字を出してまで運営を続けているサイトなのですが)とにかく小説のプロット作りをもっと楽にしたい!という一心でサイトを完成させました。

サイト開発に要した時間をかければ、じつは長編小説が3本くらいは書けちゃうのですが、それでもタロットプロットを使って小説のプロットを作れるようになりたい、そしてあわよくば「新人賞を受賞したい!」という希望の限りが当サイトには籠められています。

私が受賞パーティに出席できたあかつきには、それはもちろんタロットプロットを大々的に、もっとたくさんの人に広めたいと考えていますし、もし皆様が受賞するのに本ツールがお役に立てたのであれば、ぜひ「タロットプロット」を作家志望の友人におすすめください。

今回「レスポンシブデザイン」と「PHPによる占いシステム」を導入したことで、今後の開発がものすっごく(今までの苦労に泣きたくなるくらいに)やりやすくなりました。

タロットプロットはまだまだこれからも、進化を遂げる予定です。今後のアップデートにご期待ください。

あともし不具合など見つかりましたら、

に匿名でも良いのでお気軽にご連絡ください。

この3日間はひたすらに不具合をやっつける作業をしておりまして、奴はモグラのようにポコポコと出てくるので困ったものです。

あと最後になりますが、タロットプロットは運営1年以上になるにも関わらず(私が宣伝とコンテンツ拡充を怠けていたために)ほとんど誰にも知られていない超マイナーなWebサービスです。

アクセス解析を見ても、1日に数人がちらほらと訪れるくらいで、普段は閑古鳥が鳴いております。でもここで「シェアしてください!!」というのはなんだか違う気がして、Webサービスは何よりも人の役に立てなければいけない。

タロットプロットの目的は単純明快にして強欲で「タロットプロットでプロットを作って新人賞を突破しよう!!」の一言に尽きます。

したがって、本ツールを活用した新人賞受賞者が誕生して初めて、私はタロットプロットを作った目的を果たせたといえます。アクセス数だかPV数だかよりも、こちらの方がはるかに重要です。

(今この記事を読んでいるのが作家志望者だと仮定して)皆さんぜひ受賞をかっさらってやりましょう!! 私も全力で頑張ります。タロットプロットは、受賞レベルのプロット作成に耐え得るツールを目指して、今後も改良を続けるつもりです。

タロットプロットが皆様の創作の一助となりましたら、私としてはこれほどに幸せなことはありません。

(了)

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このブログについて|四周年記念

ときまき!を2014年9月13日に開設してから、ちょうど4年が経ちました。

ここまで継続できたのはひとえに読者の皆様のご支援とご声援のおかげです。はてブやスターも、とても励みになりました。この場を借りて心からの感謝を申し上げます。

まだまだ至らぬところもありますが、これからも頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

(ときまき!一同)

このブログは何なの?

(海鳥まき)

「ところで、このブログって結局のところ何なんですか? なんか文体とかコロコロ変わりますし」

(魚崎とき)

「なに言うとーのん!! 此処は狂気混沌の生み出す一大創作実験場やで!!! うちらはブログで、《こいつは(色んな意味で)ヤバイ……ランキング》の優勝を目指してるんや」

「そんなの目指さないでくださいよー。あと、ときちゃんは《はてな》を舐めすぎです」

登場人物紹介

「ときまき!」はタルパシステムによって生み出された架空の物書きが五名が集う、狂気と混沌の創作実験研究室です。

以下、人物紹介です。

魚崎とき(うおざきとき)

ときまき!の創立者であり先導者。

夢分析や自動記述、アクティブイマジネーション等、自己の無意識にすべてを委ねる創作手法を好む。プロットを一切用意せずにその場のノリと勢いで書き始めるので、八割方途中で挫折して未完原稿の山を生み出してしまう。しかしサークル内では最も速筆のスピードタイプ。

研究対象は《ピンクのゾウ》。狂気と混沌によるデュオニソス的創作を目指している。

女子高生、関西弁、一人称は「うち」

担当カテゴリ:魚崎とき

海鳥まき(うみどりまき)

ときまき!の参謀担当。

タロット占いを活用してキャラクターやストーリーを組み立てる創作手法を好む。プロットは脚本理論に忠実。自己の発想力には頼らず、完成されたノウハウとセオリーに則って機械的にたんたんと書くことを得意とする。

執筆スタンスが真逆である魚崎ときと衝突することも多いが、良きライバルとして互いに認めあっている。サークル内では唯一の受賞経験(星の砂 第2回ショートショートコンテスト 審査員特別賞)を持つ実力者である。

研究対象は《タロットプロット》。タロット占いでプロットを作成するためのWebツールを五条ダンと共同で開発した。

女子高生、丁寧語だがわりと毒舌、一人称は「私」

担当カテゴリ:海鳥まき

月波ツカサ(つきなみつかさ)

ホラーと恋愛を融合させたジャンルを得意とする。生来の引きこもりで、家からは滅多に出ない。宮沢賢治を愛読する。お絵描きとゲームが好き。

研究対象は《冷凍イカの瞳》。私が今ここに生きている驚き=「存在神秘」を作品に宿すことを至上命題とする。創作では絶望の先にある光を見つけ出そうともがいている。

一人称は「私」だが、書くときに「僕」や「俺」もよく使う。「あたし」にも挑戦してみたいと思っている。まともなメンバーがいない研究室内でも取り分け謎多き存在。

担当カテゴリ:月波ツカサ

深見くらげ(ふかみくらげ)

ときまき!のタルパシステムを生み出した原初にして全ての元凶。

本質は消された言葉にこそ宿るとし、文章を徹底的に削る創作手法を好む。

孤独を愛し、思索と内省のために世界を旅する。古びたコートのポケットに常に入れている消しゴムは、いつの日か自分の存在を完全に消し去るために使うらしい。

基本的に他のメンバーとの接触を持たない。架空生命体のクラゲを通し、ひっそりと皆の行く末を見守っている。

研究対象は《消失アメーバ》。「作者と作品は切り離される。自己消失によって物語は作られる」を信条とする。

一人称は「私」

担当カテゴリ:深見くらげ

五条ダン(ごじょうだん)

ときまき!の広報担当。

無い内定で大学を卒業後、ネットの海で細々とWebライターなどをして生計を立てている人。文体はどこか自虐的。恋人は百円ショップで買ったサボテン。コンプレックスを昇華させたユーモアに救いを見出している。

研究対象は《ナメクジオバケ》。「現実は甘くない。だからこそ甘さが必要である」をモットーとする。修辞技法(レトリック)の分析を得意とし、文体に重きを置く創作スタイルを好む。しかし筆速はナメクジの歩みのように遅い。

いわゆる中の人と最も結びつきの強い人格であるため、当サークルの統括代表として活動している。ツイッター、小説投稿サイト、電子書籍、同人誌即売会等では五条ダンとして作品を出すことが多いものの、あくまで便宜上の代表名義であり、必ずしも"彼"が執筆しているわけではない。

一人称は「ボク」「僕」

担当カテゴリ:五条ダン

運営者と連絡先

いわゆる中の人:五条ダン(ごじょうだん)

  • 連絡先:お問い合わせフォーム|五条ダン

    Googleメールフォーム。匿名でもメッセージ送れます。返信を希望される場合は、メールアドレスをご記入ください。返信に一週間ほどかかる場合があるため、お急ぎの場合はツイッターにお願いします。

他の運営サイト

おわりに

実のところ、何の目標も目的もなく、思いつきで「ドーン!」とはじめたブログで、まさか二年も続くとは思ってもみませんでした。

「ブロガーとブログ」換言すれば「作者と作品」は本来ならば、切って切り離せない関係です。その常識を覆すことができれば――虚構の(それも複数の)書き手が、紙上で創作バトルを繰り広げるような、そんなブログが書けたら良いな、というコンセプトが、初期構想段階でありました。

創作実験はまだ途上であり、さらなる高みを目指して、書いて書いて、悩み葛藤しながらも、書き続けていけたらと思います。

ありがとうございました!

(おわり)

オプトイン・オプトアウトの意味と違い

とき台詞

ITパスポートの勉強してたらオプトインオプトアウトって単語が出てきたんやけど、これってどういう意味なん?

まき台詞

簡単にはこういう意味です。

オプトイン(Opt-in)

Webサービスにメアドを登録したときに、メルマガを受け取るかどうかをユーザーがあらかじめ選択することができるタイプのもの。

具体的には「お得な情報を受け取る!」「メルマガを購読する!」といった文言の横にチェックボックスが用意され、そこにチェックを入れて登録すると、広告メールが届くようになる。

つまり、メルマガ配信の前に必ず受け手の《承諾》が必要となる。

オプトアウト(Opt-out)

Webサービスにメアドを登録したときに、運営から勝手にメールマガジンや広告メールが送られてくる、うっとうしいやつ。ユーザーはメールを受けとりたくなければ、わざわざ《メルマガの購読解除》の手続きをしなければならない。

ユーザーの承諾なしに広告を送りつけるのでは迷惑メールと変わらないため、現在では特定電子メール法および特定商取引法によりオプトアウトは原則禁止されている。

……はずだが、実質的なオプトアウトメールが世に氾濫している。(後述)

とき台詞

オプトインとオプトアウトがごっちゃになってよくわからんのやけど……。

まき台詞

オプト-イン、-アウトの「オプト」って、私たちが日常でよく使う「オプション」から来ているんですよ。

つまり

Option=オプション
選択できるもの、選択権
Opt-in=オプトイン
ユーザーが「入る」ことを選択できる=広告メールを「受け入れる」かどうかを選択できる。
=「メールマガジンを購読する」のチェックボックスに《イン》する!
Opt-out=オプトアウト
ユーザーが「出る」ことを選択できる=広告メールを「出て行かせる」かどうかを選択できる。
=「メールマガジンを購読する」のチェックボックスから《アウト》する!

どうでしょうか?

これでスッキリまとまったんじゃないでしょうか。

少なくともこの覚え方ならば、両者を取り違えることはないでしょうし、ニュアンスも掴みやすいでしょう。

とき台詞

いやいや、まだ納得いかんことがあるで。

ぱっと見オプトインやけども、実質的にオプトアウトなWebサービスっていっぱいあるやん!

例えばリクルートの運営している「ポンパレモール」

あれって、商品を買うときの注文画面で「お得なメールマガジンを購読する」のところにデフォルトでチェックが入ってるんや。しかもページの下の方の、目立たないところにチェックボックスがある。気付かずに商品購入ボタンを押すと、勝手にメルマガ購読してしまう。

で、メルマガ届くたびに購読解除手続きをするんやけども、また買い物をするときにうっかりチェックを外し忘れてしまって、再びメルマガが届く。

こんなん、ほんとにオプトインを実現してるって言えるん?

まき台詞

ま、まぁポンパレモールに限った話ではないですが、多いですよね。楽天市場もそんな感じですよ。

しかしユーザビリティのためにも、「メルマガ購読」のチェックボックスはデフォルトで外しておくべきだ!という考えは、広まってはきているようです。

ちなみにときちゃんが言ってた「メールマガジンを購読したくないのなら、自分でチェックを外してね!」というタイプのものを《事前オプトアウト》と呼ぶこともあります。実質的にはオプトアウト方式と変わらない、とする考え方です。

チェックボックスを外さなかったからといって「承諾したものとみなす」のは、ユーザーの不注意に期待しているようで、良い印象は受けません。

とき台詞

あとあれ、フリーソフトとかをダウンロードして、インストールするときに「Yahoo!ツールバーをインストールする」とか「Baidu IMEをインストールする」とかにデフォルトでチェック入ってるやん。

で、うっかりチェック外さずインストールすると、勝手に余計なものがくっついてきてアンインストールにやたらと手間かかるやつ。

あれも事前オプトアウトやん。許すまじ。

まき台詞

ま、まぁ…フリーソフトなら無料で使わせてもらっているのでそのくらいは我慢すべきだと思いますが……、有料のソフトでもたまにあるので、ユーザーにとっては不便ですよね。

Webサービスの会員登録だと、逆に「ダブルオプトイン」のものが増えてきましたよね。

メールアドレスを入力して会員登録手続きを済ませても、まだ本登録は完了していない。登録メールに送られてきた認証URLをクリックして初めて、会員登録が完了する。そんなタイプのシステムを《ダブルオプトイン》と呼びます。

ITパスポートの試験であれば、オプトインとオプトアウトの違いさえ分かっていれば十分です。ここでご紹介した事前オプトアウトやダブルオプトインは余談です。

オプトインについては『特定電子メールの送信の適正化等に関する法律』の第三条に定めがあります。

第三条  送信者は、次に掲げる者以外の者に対し、特定電子メールの送信をしてはならない。
一  あらかじめ、特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者又は送信委託者(電子メールの送信を委託した者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。)をいう。以下同じ。)に対し通知した者

(引用:特定電子メールの送信の適正化等に関する法律

オプトイン方式では、受信者側の同意を『あらかじめ』得ておかなければならないというのがポイントですね。

もっと詳しく知りたい方は、総務省のサイトがおすすめです。

総務省|電気通信消費者情報コーナー|迷惑メール対策

上記ページの『広告・宣伝メールを送られる方へ』の項目にある《特定電子メールの送信等に関するガイドライン》というPDFファイルに分かりやすくオプトイン規制についてのポイントが書かれています。

ではそろそろまとめに入りましょう。

まとめ

オプトイン(Opt-in)

ユーザーが広告メールを受信するかどうか、事前に選択できる。

オプトアウト(Opt-out)

ユーザーは《配信解除》をすることによって、広告メールを受け取らないようにすることができる。

  • オプトイン(事前承認)がなく、オプトアウト(配信停止)だけが用意されているもの
  • あるいはオプトイン(事前承認)はあっても、オプトアウト(配信停止)ができないもの

これらはユーザーにとって迷惑であり、特定電子メール法違反となり得る。

また、オプトインでは『メルマガを購読する』のチェックボックスが標準で外れている方が望ましい。ユーザーの不注意や見過ごしを期待してメルマガを購読させるのは、厳密な意味でのオプトインとは呼べない。

(おわり)

ワケギを切るのもタマネギをレンジにかけるのも涙がボロボロ零れる

ワケギでも涙は出るという話

家族3人分の料理を任せられる私としては、なるべく楽をしたいのが道理で、この頃は「野菜の冷凍保存」に凝っている。タマネギやニンジンを予めスライスしてからラップに包んで、小分けに冷凍しておく。するとカレーやシチューを作るときの「時短」ができ、味もさほど落ちない。

先日、スーパーを歩いていて、ワケギの大袋が100円で安売りされていた。私は今までワケギを青ネギの妹か何かだと思っていたのだが、ちょっと違った。ウィキペディア先生によると、ワケギは「ネギとタマネギ」の雑種なのらしい。

さておき、買ったワケギを買い物バッグに入れて揺らしているうちに、ルンルン気分。初音ミクのIevan Polkkaを脳内再生しながら、閃いた。今日のうちに全部まとめて、ワケギをみじん切りにしてしまおう。それをジップロックで冷凍保存しておけば、当分はネギを切る煩わしさから解放されるぞ。

御存知の通り、ネギは日持ちが悪い。野菜室で1週間も寝かしておくとヘニャヘニャ~と元気を無くし、先端から枯れたようになってしまう。かといって(スーパーで売ってる)事前にみじん切りしてある「葱パック」は消費期限が1~3日と短い。どうにも扱いづらいし、値段も高い。

帰ってさっそく、まな板の上にワケギの束をどっさりと置く。包丁でみじん切りにしていく。ところでどうしてネギと言う奴は、まな板の上からコロコロと転げ落ちていくのだろう。

そんなことを考えながら、タン、トントン、と切っているうちに、涙がボロボロと零れ出す。

私は眼鏡をしている。普段はネギを切ろうがタマネギを切ろうが滅多なことでは涙が出ない。なのに、ワケギの山と向かい合っているうちに、涙が止めどなく溢れ出てきた。恋をしているのかな、と思った。そうでなければ、まな板から落っこちるワケギの子の悲しみが乗り移ったのだろう。

あとで、ネットで検索をした。ワケギがタマネギの仲間だと知ったのはこの時だった。普段は切る量が少なかったので気が付かなかったが、ワケギといえど大量に切れば揮発性の硫化アリルが目に染みるのだそう。

ワケギをいっぺんに切る際にはご注意あれ。

タマネギレンジは恐ろしいという話

同じくネットで「タマネギはレンジで温めてから切ると涙が出ないよ!」という極秘情報を入手した。私はへぇーっと思った。じつは、以前にアニメでみた「ふらいんぐうぃっち」の料理好きな男の子も同じことを言っていた。

私の認識では、タマネギは「切ったあと」にレンジにかけるものだ。「切る前」にレンジにかける発想はなかった。タマネギを切ったあとに耐熱容器に入れてラップをふわりとかけ、レンジで3分ほど温めると、柔らかくなって料理の時短ができる。これはよくやる。

さておき、ネットの情報を鵜呑みにした私は、やってみようと考えた。

タマネギを半分に切って、レンジの中へ。耐熱容器に乗せる。ターンテーブルがクルクルと回るのを見届けて、1分間(温めすぎた)。昔のレンジは「チンッ」と小気味良い音で知らせてくれたのだが、最新のに買い換えてからは「ピピー、ピピー」と鋭い音で終了の合図をするので、私はびっくりしてしまう。レンジに風情を求めるのは酷か。

タマネギを取り出してみると、モクモクと蒸気が上がっている。(ほう、これはすごいな……焼き芋みたいだ)と思った私は、真正面からタマネギを覗き込んだ。

立ち昇る蒸気。

見開く瞳。

鼻は大きく空気を吸った。

刹那――、私は鼻腔の奥に、いたたまれない何かが暴れだすのを感じた。

ゲホゲホと咳き込むも、涙が止まらない。

くっ……これは孔明の罠!!

レンジ恐るべし。

おのれネットのいい加減な情報め!と拳を振り上げるも、今にして思えば(目論見通り)気化させたはずの《硫化アリル》。この催涙成分を多分に含んだ蒸気をわざわざ吸い込みにいったのは、愚かな私自身であった。

タマネギで涙を出さないクックハックには、レンジで温めるのとは逆に「切る1時間くらい前に冷蔵庫で冷やしておく」というものもある。

私としてはこちらが気に入っている。

あと、包丁を研いで切れ味を良くした。タタタタタタターンとリズミカルに切る手法をマスターしてからは、タマネギに泣かされることは無くなった。料理を楽にするならスピードとストックを究めるべしだと感じた夏の日暮れであった。

(終わり)

小説原稿を1日2万文字書くには、どうすれば良いのか

「小説家の西尾維新さんは1日に2万文字を書く」という話を聞いた。私も集中して原稿執筆に時間が取れる機会を得たので「1日2万文字」を目標に挑戦してみた。

―― へえー、文字数で! 1日でどれくらい書かれるのですか?
西尾 今は、基本1日2万字です。

引用:西尾維新さん - あのひとの「ほぼ日手帳」 - ほぼ日手帳2014

どのくらいの時間があれば、2万文字書けるの?

私の場合は、2万文字を書くのに平均して10時間を要した。つまり筆速は2000字/時となる。お恥ずかしい話、1日2万文字に2週間ほど挑戦をして、これを達成できたのはわずか2日間だけだった。日速1万文字までならば、根気と時間さえあれば乗り切れる。

けれど日速2万文字となると、厳しい。実際にやってみると分かるが、到底不可能ではないかと思われる。凄まじい集中力の持続がなければ、2万字には到達しない。私が2万字を達成した2日間は、実のところ「徹夜」をすることで何とか書き切れたのだった。

結論を述べれば、西尾維新さんは凄すぎる。脱帽する。とても「1日2万文字」は、常人に容易く達成できる筆量ではない。

「筆速2000字/時」って遅くない? 森博嗣さんは1時間で6000文字書くよ

小説家の森博嗣さんは「1時間で原稿を6000文字書く」と、インタビューで答えている。(参考:森博嗣さんインタビュー | BOOK SHORTS

「6000字/時」は、はっきり言って、神様レベルだ。たとえゾウが逆立ちをしても、私にはできない。無理です。筆が一番乗っている奇跡的な瞬間でさえ、時速4000字が限界だった。

「ふふふ、そんなの嘘だ、俺が本気を出せば余裕だぜ!」と思われた場合には、実際にストップウォッチを使って挑戦してみよう。多分、絶望すると思う。私も時速6000字にチャレンジして、その結果を目の前にしたときは、絶望に打ちひしがれた。

圧倒的な神の力を見せつけられて恐れおののき、地に頭をつけてひれ伏す。次元の壁を知る。まさに――、そのような気持ちだった。

「筆速2000字/時」は遅いペースではない

これも実際に書いてみることで実感できる。1時間で2000文字は決して遅くない。原稿用紙換算で5枚、一般的な文庫本換算で4ページほどとなる。この文量を1時間で書き進めるのは、意外と難しい。

具体例を挙げてみる。「2000字/時」で書くためには、30分で1000文字書かなくてはならない。

「1000文字」は、縦書き原稿で「40字×32~35行」くらいの文量となる。(計算が合わないじゃないかと思われるかもしれない。しかし小説を書くときはページ一杯に文字を埋めていくわけではないので、このくらいとなる)

つまり、30分で1000文字書くためには、1分で1行以上は書き進めておく必要がある。やってみると、案外難しい。

「次のヒロインの台詞はどうしよう」「このシーンの描写はどうやろう」「表現はこれで合っているのだろうか」などと悩んでいると、1行を書き終える前に2分、3分、10分と、どんどん時間が過ぎ去っていく。

ゆえに「筆速2000字/時」は決して遅いペースではない。むしろ、それなりに原稿が止まらずにスラスラと筆が進んでいる状態だ。だから筆速2000字あるのなら、「もっと早く書かなきゃ」と焦らなくても大丈夫。

集中力が途切れるのはどうすればいい?

私は次のような方法で原稿を書いている。

  1. 30分を目安に1000字を書く
  2. 書けたら10分間の休憩。ベッドで横になったりストレッチをしたりしながら、次の1000字で書くシーンを脳内再生する。
  3. また30分を目安に1000字を書く
  4. 終われば再び10分間の休憩をしながら、次に書くシーンを脳内シミュレートしておく。

上記を5セット繰り返すと「執筆時間5時間、休憩時間90分」で、原稿が1万文字進む。時速2000文字で進めるとして、もちろん10時間やれば2万文字は達成できる。が、本当に苦しい。途中で意識が途切れてぶっ倒れそうになる。

小説執筆に時間が取れるときであっても「1日あたり1万文字」くらいが、無理のない範囲かなと感じる。

こまめに休憩を挟む方法は、一見すると非効率的に見えるかもしれない。しかし、1日に5時間以上原稿を書き続ける場合においては、このように休憩を入れないと集中力がまず持たない。

実際に休憩なしのノンストップで挑戦してみると『走れメロス』の気分を味わうことができる。

途中で筆が止まってしまうのはどうすればいい?

原稿は「描写」と「構成」の2つの要素から成り立つ。

つまり、筆が止まる原因は

  1. シーンをどのように文章で表現したら良いのかで悩む=「描写」の問題
  2. 次の段落にどういったシーンを持っていけば良いのかで悩む=「構成」の問題

のどちらかであると思われる。

描写で立ち止まった場合には、大抵は辞書を引けば解決できる。創作理論の本などを読むとたまに「原稿執筆中は辞書を引くのを辞めましょう。難しい表現に固執せず、自分の言葉で書き進めることが大切です」といった論説を見かける。

後半部分には同意するとして、それでも辞書は引いたほうが良い。むしろ原稿執筆中に辞書を引かなくて、一体どこで辞書を引く機会が訪れるというのか。どんどん辞書に頼るべし。

例えば、次のようなシーンで筆が止まったとき、辞書なしで描写の問題を突破するのは難しい。

「えーっと、歩道橋の上で男が佇んでいるシーンを描きたい。男は歩道橋の上で、寄りかかって、肘をついて、街に沈みゆく夕陽を眺めている。このとき男は『何処に両肘を乗せた』と表現するのが正しいのだろう。

『歩道橋のうえに両肘を乗せた』は表現としておかしい。

『歩道橋の柵の上に…』『転落防止用のフェンスの上に…』『手すりに両肘を乗っけて…』うーん、どれもしっくり来ない。何かぴったりと当てはまる表現はないものか」

と、上のように悩んだときに、日本語大シソーラス類語検索大辞典(大修館書店)を一冊持っていれば、即座に悩みが解決する。

この辞書で「手すり」と引いてみると、類語として「欄干(らんかん)」というまさにぴったりな言葉が出てくる。

『歩道橋から沈みゆく夕陽をぼんやりと見ている。男は欄干に両肘を乗せて、重々しく溜め息をついた。』

以上、解決。「欄干」の言葉なしに上記の描写を突破するのはなかなか難しい。辞書にはどんどん頼ってしまえば良いと感ずる。

ちなみに私はロゴヴィスタから発売されている日本語大シソーラス類語検索大辞典を使っている。検索語句を一発で引くことができ、めちゃくちゃ便利だ。「ctrlキー+R」で全文検索ができる。(見出し語にない単語でも見つけられる)

『日本語大シソーラス類語検索大辞典』(ロゴヴィスタ)

(私はAmazonのダウンロード版 for Winを購入した。Windows10でも問題なく使える) 

執筆中の使用頻度が高い辞書リスト

私は具体的に、執筆中は以下の辞書を使っている。

☆言葉の意味が間違っていないかを確認する

  1. 岩波国語辞典 第七版
  2. 広辞苑 第七版

上の2つはいずれも電子版で、「一太郎プレミアム」のおまけにくっついてきた。※付属の電子辞書は毎年変わり、2018年版には広辞苑が特典についてきた。

一太郎プレミアム付属の「広辞苑 第七版 for ATOK」は、気になる単語を選択してCtrlキーのショートカットで即座に辞書を呼び出せ、大変便利だ。

ちなみに今年度版の「一太郎プレミアム 2019」には

  • 日本語シソーラス 第2版 類語検索辞典 for ATOK
  • 明鏡国語辞典 第二版 for ATOK

の2種類の電子辞書がおまけでついており、まさに小説書きをターゲットとした特典となっている。

※平常時はAmazonよりも、上記のジャストシステム公式のECサイトからの方が一太郎は安く買える。

☆類義語、代替表現を調べる

  • 日本語大シソーラス類語検索大辞典(大修館書店)

使用頻度がめちゃくちゃ高い。これひとつあるとものすごく捗る。

たとえば『嬉しい』の項目を調べると『胸をふくらませる』『心躍る』『顔を綻ばせる』『声を弾ませる』『嬉しい悲鳴をあげる』などなど、小説表現にも使えそうな類語がたくさん出てくる。

上で述べたとおり、ロゴヴィスタの電子版がパソコンで即引けて便利。CASIO電子辞書(EX-word)の上位クラス版でも、この類語辞典が搭載されていたはず。

収録語数は申し分ないが、用例や使い分けの解説がないのは短所とも言える。国語辞典と合わせて活用したい。

☆言葉のあとに接続する語を調べる

この辞書も比較的、執筆中の使用頻度が高い。コロケーション辞典なのだけれども、小説を書くのに特化している感じがあり、使いやすい。

例えばてにをは辞典で『胸』の項目を調べると、『胸が上下する』『胸が波立つ』『胸が煮えくり返る』『胸が早鐘をつく』『安堵が胸に還る』などなど、『胸』の前後に繋がる言葉が大量に提示(100は軽く超えている)される。

てにをは辞典に出てくる表現だけで小説一冊書けるんじゃないかと思えてしまうほどで、大層役立つ。

(参考:「てにをは辞典」小説書きの辞書レビュー

他にも小説執筆のために、あと10冊ほどの辞書を用いている。出し惜しみも勿体無いので、リストアップと簡単な評価だけしておきたい。

タイトルリンク先はAmazonページ。個別にレビューをおこなっているものについては記事リンクをつけた。

  1. てにをは連想表現辞典(三省堂)
    ◯ 上級者向け。てにをは辞典の姉妹辞書で、実際の小説作品で用いられている「表現」を調べる。ただ索引に手間がかかるため、使い勝手は五十音で一発引きができる「てにをは辞典」の方が優秀。
    → (てにをは連想表現辞典 レビュー記事
  2. ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 プラス世界各国要覧 2018(ロゴヴィスタ)
    ◯ あると何かと便利だが、最近ではWikipediaで調べることが多い。買うならPC版か電子辞書が使いやすい。
  3. 感情類語辞典フィルムアート社)
    △ 見出し語が少なすぎて辞書としては使えない。心理描写の書き方の参考にはなる。
    → (感情類語辞典 レビュー記事
  4. 性格類語辞典 ポジティブ編ネガティブ編(フィルムアート社)
    △ こちらも辞書としては今ひとつだが、キャラ設定時のネタ出しには活用できる。
  5. 場面設定類語辞典(フィルムアート社)
    △ 情景描写・風景描写を手助けする非常に面白い発想の辞書であるものの、日本を舞台とする小説には使いづらい点が多く見られる。
  6. 日本語コロケーション辞典(学研)
    × 用語解説があるのはプラスだが、てにをは辞典の収録語数には大きく劣る。小説執筆にはあまり役に立たない。
  7. 日本語の文体・レトリック辞典(東京堂出版)
    ◯ 上級者向け。修辞技法の体系を網羅。ただ使いこなすには、レトリックについての事前知識が必要。
    → (日本語の文体・レトリック辞典 レビュー記事
  8. 官能小説用語表現辞典 (ちくま文庫)
    △ この手の小説を書くなら役立つ。ただし出てくる表現が独創的なため、直接的な借用は難しい。(剽窃表現となってしまう)
  9. 官能小説「絶頂」表現用語用例辞典 (河出i文庫)
    ◯ この手の小説を書くのであれば極めて役立つ。
    官能小説用語表現辞典よりもこちらの方が実用的。私が持っているのは文庫版だが、このたびまさかのKindle版が登場。電子書籍なら本文検索ができて便利。
  10. レトリック事典(大修館書店
    ☆☆☆ 超上級者向け。レトリックをマスターするのであれば外せない辞書。文章表現をとことん究めたい方に。但し極めて専門的かつマニアックな領域。
    → (レトリック事典 レビュー記事

辞書を買うのは良い投資だと感じている。

ボキャブラリーを増やせば良い小説が書けるのか?と問われれば、私は首を横にふる。けれども、執筆の補助ツールとして辞書は役立つか?と問われれば、それはもう全力で首肯したい。

とにかく辞書さえ揃えれば、描写の問題で筆が止まる事態はかなり軽減される。

次の段落に何を書けば良いか迷ったときの対処法

「構成」で立ち止まってしまうのは、事前準備の段階で「設定」が煮詰まっていないケースが多い。プロット、世界観設定、キャラ設定のどれかに不備があると、書き進められなくなる。

シーンが鮮明に滞りなく脳内再生できるようになるくらいまで、設定を深めておきたい。原稿を書く段階に至って「このキャラの口調はどうしようかな」みたいなことを考えているようでは、準備不足と言わざるをえない。

私も決して偉そうなことを言える立場ではなく、プロット段階での準備不足をいっつも後悔している。本当に反省しだせばキリがない。

手前味噌で申し訳ないが、プロットのアイデア出しに役立つであろうWebサイト「タロットプロット」なるものを作った。もし宜しければこちらもご活用されたし。

どうしても次の段落が思いつかない場合には、【保留】とでも原稿に打ち込んでおいて、次の書けるシーンに飛ばしてしまっても大丈夫。

1日2万文字を書く方法まとめ

  • 時速2000字なら、10時間はかかる(かなり苦しい)
  • 時速2000字は、決して遅い執筆ペースではない
  • 30分で1000字書いて、10分休憩(&次に書くシーンを脳内再生)を繰り返すと、長時間の執筆でも集中力が持つ
  • 「描写」で詰まったときは辞書にどんどん頼ろう
  • 1日2万文字を書くためには、前提条件として「プロット」「キャラ設定」「世界観設定」などの事前準備をしっかりとしておく必要がある(その場の即興で2万字書こうとするのは無謀。ただし不可能とまでは言わない)
  • 無理のない範囲でなら、1日1万文字程度に留めておくのが無難

(終わり)

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