ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

恋愛小説の告白シーンでは『愛してる』よりも、『私、目玉焼きはソース派なの』と言わせる方が簡単である。(創作理論)

まき台詞

ふょょ……純愛小説を書いているのですが、なかなかうまく書けませんね……。

 

とき台詞

ふふ、マキちゃんもしかして、告白シーンで『愛してる』なんて台詞を使ってないやろね。恋愛小説で『恋』とか『愛』とかいう言葉を使うのは、自爆行為やで。

 まき台詞

えっ、どうしてですか?

恋愛小説ってそれそのものが『恋』や『愛』をテーマにするのですから、そういった言葉が出てくるのは当たり前だと思いますが……。

 

とき台詞

いやいや、小説はそれひとつが巨大なメタファーなんやし、「作品のテーマ」や「作者の主張」は物語の裏側に隠しておきたいもんやで。読者に直接メッセージを伝えたいのであれば、ブログやエッセイ、あるいは論文に書いたらええわけやから。

そして何より「愛」という言葉はあまりにも強力過ぎるがゆえ、「愛してる」の響きだけで作品を陳腐化させてしまう危険性がある。

 

男子高生「愛してる!」女子高生「興醒めやな…」

 

つまり、こうなる……、……。

 

 

もちろん、小説ってのは『自由であること』が大原則やし、何を書いても自由ではあるんやけども――。

ただ、告白シーンで「愛してる」とキャラに言わせて、場を白けさせないためには、相応の筆力がないと難しい。

それならば、「私、目玉焼きはソース派なの」という台詞を挿入する方が、愛を伝えるのは100倍簡単なんやね。

 

まき台詞

そうですかね、エンターテイメントは分かりやすさが命ですよ!

『好きです!! 付き合ってください!!』と叫ぶくらいがシンプルで良いのだと私は考えます。

月が綺麗ですね、とか、目玉焼きはソース派なの、とか、洒落たことを言っても読者に伝わらなければ何の意味もありません。

って、目玉焼きって何……。

 

とき台詞

例えばこんなんはどやろか……。

 


「ごめん……」

 隆史は口を固く引き結び、頭を下げた。濡れた髪から落ちた雫の数滴が、腐った畳に吸い込まれる。これが自分の涙であればどれほど救われるだろうかと隆史は思った。いや、自分が泣いてもカビの餌にしかならない、か。

 六畳一間のボロアパートで、六月の雨はトタンの屋根をボタボタと気の抜ける音で打ち付けている。この場にふさわしくない"深窓の令嬢"はしかし、玄関のドアノブを後ろ手に守ったまま、微動だにしない。穢れを知らぬ澄んだ瞳で、隆史を見つめ続けている。

 隆史は急に恥ずかしくなった。彼女の身につける、ブランドもののバッグ、高級そうなドレス、どれも自分には縁のないものだ。

「俺では、お嬢さんを守れない。それに……」

 価値観も、境遇も、地位も、生い立ちも、何もかもが異なる人間同士が結ばれるなど、世の中が許さないことくらい――

「……わかってくれよ」

 何とか言葉を絞りだすと、心が引き裂かれるように傷んだ。

 彼女を"こちら側のセカイ"に引きずり込んでしまうことが、恐ろしかった。

「ねぇ、隆史くん……」

 ブロンド髪の少女は、歌うような声で言った。

 

「私、目玉焼きはソース派なの」

 

 


 

 即興で書いたけども、最後の台詞「愛してる」よりも「私、目玉焼きはソース派なの」の方がしっくりこーへん?

 

まき台詞

うーん……。

さすがに目玉焼きは無理やり感がある気が……。

あと、世界観は現代だと分かるものの『深窓の令嬢』『ブランドもののバッグ』『高級そうなドレス』といった言葉のチョイスが不味い気がします。何というか、ファンタジー系のお姫様のビジュアルが語彙に反映されていて、そこら辺が不協和音ですかね。

それと、隆史が「お嬢さん」と呼びかけるのも、やや違和感があります。隆史側は良いのですが、お嬢さん側のキャラ設定がブレている感じがしますね。

この辺りが修正ポイントです。

 

とき台詞

ふぇぇ、マジレス怖い……。

ただ小説を書くときには、テーマをある程度具体的に落とし込んだ方が楽といえば楽かな。

「愛とは何か」よりかは「価値観の異なる者同士の恋愛は成立するのか」の方が書きやすい。

そしてこの場合、「価値観が違ったって、愛には関係ない」という台詞をキャラに語らせるのではなく、「目玉焼き」というメタファーに物語を託すことで、筆者の主張を隠すんやね。

うちはそういうふうにして、小説を書いとる。

 

逆説的に、「愛してる」の台詞が極めて有効なシチュエーションには、以下のようなもんがあるで。

  • 定年退職を間近に控えた夫に、熟年離婚を計画する妻の一言。「あなた、愛してるわ」
  • ブラック企業の社長。「俺は社員を誰よりも愛している」
  • 肉切り包丁を棚から取り出したヤンデレな妹。「お兄ちゃん、愛してるよ」

 

まき台詞

ときちゃんが言いたいことは大体わかりましたょ……。

今日のまとめ

作者の主張と、作品のテーマは、目玉焼きのなかに隠す!

 

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