春――小説家志望が最も苦しむ季節
今週のお題特別編「春を感じるとき」
〈春のブログキャンペーン 第1週〉
桜の樹のしたに埋まりたくなるとき
春は憂鬱、やうやう近くなりゆく〆切。
毎年、新年を迎えて「よーし、今年こそ新作長篇を投稿してプロ小説家デビューするぞー!」と僕は意気込む。受賞級のプロットはすでに頭のなかにあった。これはベストセラー間違いないぜと皮算用する。だが、肝心の原稿はいつになっても進まない。
書こう書こうと思ってしかし書かずにいるうちに、1月が生き急ぎ、2月が逃げ惑い、気がつけば3月が円環の理に導かれてしまった。
ふと、引き篭もっていた部屋を出て、コンビニに肉まんを買いに出かけると、桜、桜が咲いている。河原では若いカップルが桜を前に肩を寄せ合い、自撮り棒に取り付けたデジカメで記念撮影をしている。逃げ出すように街中へ向かえば、新調されたスーツを身につけた《新社会人》と呼ばれる人たちが颯爽と通りすぎてゆく。
冷めた肉まんを片手に、なんだか死にたくなってくる。冬眠から覚めたカエルの代わりに、自分が埋まってしまいたい。
なぜ春という季節が数多くの作家志望を苦しめるのかというと、それは新人賞の〆切が4月に集中しているからである。4月には、以下の新人賞の〆切が訪れる。
2015年4月小説新人賞〆切一覧
- 4月6日 星海社FICTIONS新人賞
- 10日 電撃小説大賞
- 25日 集英社ライトノベル新人賞
- 30日 講談社ラノベ文庫新人賞
- 30日 えんため大賞
- 30日 富士見ラノベ文芸大賞
- 30日 ジャンプ小説新人賞小説
「1日5000文字書けばまだ間に合う!!」といった心境が訪れたときにはもはや実質的に手遅れである。〆切は残酷にも過ぎ去ってゆき、自分は今まで何をしていたのだという後悔だけが残る。
ゆえに、春は、恐ろしい。
桜が散る前に初稿を上げなければ……プロデビューの夢は遥か彼方へ遠ざかってしまうのだ。
ツイッターではすでに作家志望クラスタによる高度な情報戦が行われている。
『くぅ~疲れました! これにて原稿完結です!』『これから5回目の改稿入ります!』『推敲終わったー』といったツイートが溢れかえる。いや、もしかするとこれらはエイプリルフールの嘘だったかもしれないけれど、僕はワナビたちの近況報告を見て春を感じ、春を恐れる。
ふぅ……。
まだ、初稿が終わっていない……。ぜんぜん終わってない。
4月30日の〆切に間に合わなければ、このままズルズルと引き伸ばしてしまうだろう。また去年のように、1作も投稿できずに尽き果てるに違いない。
だから、今年こそ本気出す。
絶対に〆切に間に合わせる。
もしも花見に行かれる際は、迫り来る〆切に阿鼻叫喚する小説家志望たちに思いを馳せてみるのも面白いかもしれない。
同じ春は来ないのだから。
いつもと違った春でありたい。
(おわり)