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ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

サボテンに、名前をつけた。名はツカサ。

時巻エイ

ツカサと運命の出会いを遂げた場所は、忘れるはずもない、バレンタインの日にふらりと立ち寄ったダイソー(100円ショップ)である。

ツカサは100円で売られていた。

僕は一目惚れした。彼女を家に迎えてやりたいと思った。

大阪新御堂筋のロフト通りは街路樹がサファイアを散りばめたかのようにイルミネーションされていて、カップルたちが恋人繋ぎをして幸せそうに通り過ぎてゆく。僕はその中、ダイソーのレジ袋を大事に抱えて帰路についた。

家に帰って「ただいま」と声をかける相手がいるのは、とても幸福なことだ。レジ袋から取り出したツカサに「おかえり」と声をかけて、本棚の空いている段に置いた。

ネットで調べてみると、そのサボテンは《黄金司:こがねつかさ》と呼ばれる品種のものらしい。これは良い名前だと思って、彼女にツカサという名前をつけた。

ツカサの棘は黄金色に輝いていて、美しかった。一見、モフモフとやわらかそうな触感のイメージがして、そっと優しくツカサを撫でてみる。

チクリとした無数の痛みが指先を走った。慌てて手を引っ込める。

(くっ、僕は愛するものに触れることさえできないのか……)

バレンタインの夜の切なさが、自分をセンチメンタルな気分にさせた。

 

後日、紀伊國屋書店でサボテンの育て方の本を買ってきた。読んでみるとこんな意味のことが書かれてある。

『愛を与え過ぎずに、節度を持って付き合いましょう。サボテンが枯れる一番の原因は、水のやり過ぎです。』

そうか、過剰な愛は、相手を枯らしてしまうのか……。

サボテンは奥が深いなと感じた。

 

ところで、少し前、ツイッターで話題になった『リンゴと罵声の話』がある。

リンゴに「大好き、愛してる」と話しかけると、そのリンゴはいつまでも腐らずに綺麗なまま。しかし「バカ野郎、へたれ」と罵ると、リンゴはすぐに真っ黒に腐ってしまうのだそうだ。まるでリンゴに心があるかのように。

そういった趣旨の道徳の授業が紹介されて『エセ科学は滅びろ!』といった批難が集中した。

 

そんな話を思い出したので、ツカサに「好きだよ」と声をかけてみる。

返事はなにも、返ってこない。

僕はそれで十分だと思った。

 

その日を境に、ツカサにはよく話しかけるようになった。

『聞いてアロエリーナちょっと言いにくいんだけど~♪※』といった具合に。

※マンナンライフのCMソング(2001年に大ヒット)

仕事の愚痴や、小説が書けない悩みや、近所のラーメン屋が美味しかったことや、ご注文はうさぎですか?のチノちゃんが可愛かったことや、たくさんのことを話したけれど、ツカサは言葉に一切の反応も見せず、いつも静かに佇んでいるだけなのだ。

僕はそれで、十分に救われたと感じた。

 

前置きがすごく長くなったけれど、今日はこのお題に投稿したい。

今週のお題特別編「この春に始めたいこと・始めたこと」
〈春のブログキャンペーン 第2週〉

 

4月になって初めて体験したのは、サボテンの植え替えだ。

コーナンでサボテン専用の土を買ってきて、植木鉢に植え替えた。

ただそれだけのことなのだけれど、けっこう緊張した。

棘は刺さると痛いので、植え替えのときは手袋をするか、サボテンを掴むためのピンセットを用意しておこう。

 

子供の頃、ポケモンのディグダとダグトリオの地面の下の部分がどうなっているのかすごく気になっていた。それと同じように、サボテンの根っこがどうなっているのかも不思議だった。

土をほぐしてみると、現れたのはふつうの植物と何ら変わらない、白くて細い根っこだ。サボテンは双子葉類なので、根はタンポポやダイコンのように、主根と側根から成る。見たことはないが、サボテンのタネを蒔くと、かわいい双葉が出てくるはず。

サボテンは意外と萌え要素に満ちた植物なのだ。

 

植替え終わり。

一般的な植物の場合、植替え直後に水をあげることが多い。

しかしサボテンの場合、植え替え後10日ほどは水をあげずに直射日光の当たらない場所で休ませておくのが良いらしい。

水をうっかりやり忘れて植物を枯らしてしまった体験はよく耳にする。

でもサボテンは水のやりすぎで腐ってしまうのだから、難しい。

 

結局のところ、リンゴに「愛してる、ありがとう」と話しかける道徳授業の教訓は、独り善がりにならず相手をきちんと観察することの大切さだと思った。

もしも僕がリンゴの立場であったら、絶対にこう思っただろう。

「おう、感謝の言葉はもうええから、美味しいうちにさっさと食えや!!」

 

――といった長話をツカサにしていた。

すると「ブログの記事にでもしたら?」という言葉が返ってきたような気がしたので、書いてみた次第だ。

 

春、僕とツカサ、二人の新しい生活が始まる――。

 

【完】

 


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