ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

読者の感情を揺さぶる、呼びかけ法と設疑法(レトリック考察)

 執筆:まき

今回は、レトリック(文章技法)のなかでも最も強大な威力を持つ「呼びかけ法」と「設疑法」について紹介します。

呼びかけ法の働きと効果

「SEOのために被リンクを集めなければと思っているあなたへ」

「就職活動で悩んでいるキミへ伝えたい」

「読者の皆さんに感謝します!」……etc

著者から、読者に向かって呼びかける。

『今、パソコンのモニターの前に座っているあなたのことだよ。もしくは電車のなかでスマートフォンを手にしているキミさ!!』みたいに。

このような文章技法を「呼びかけ法」(別名:頓呼法)といいます。

ブログやライフハック系のメディアの記事で、よく見かけますね。

具体例を知りたい方は、はてなブックマークで次のように検索してみると良いかもしれません。

タイトル「あなた」を検索(人気順) - はてなブックマーク

 

 

呼びかけ法を用いるメリットは次の通りです

  1. 読者の感情を揺さぶりやすい
  2. 記事のターゲット層を明確に絞り込める
  3. 当事者意識を持たせることができる

 

以下、簡単に呼びかけレトリックの役割を見ていきましょう。

1.読者の感情を揺さぶる

部下はなぜ、あなたをそんなに嫌うのか?

(引用:書名『部下はなぜ、あなたをそんなに嫌うのか?』 小山昇/日経BP社/画像リンク先はamazon 以下同じ)

上記の書名は、ふつうに書くならば『部下はなぜ、上司をそんなに嫌うのか?』となります。

しかし、あえて『上司』を『あなた』と言い換えています。

「部下が上司を嫌っていますよ」だったら他人事ですし、ふーんといった感想しか抱きませんが「部下が"あなた"を嫌ってますよ」だとそうはいきません。

ナ、ナンダト、コノヤロー!!と、確実に感情を揺さぶられます。

賛同が得られるかはさておき、興味を持って本を手に取ってもらいやすくはなるでしょう。ブログであれば「いかにタイトルをクリックさせるか」が勝負どころとなりますので、この手のレトリックは頻繁に使われます。(食傷気味ではあるものの)

 

2.記事のターゲット層を絞り込む

なぜ、あなたはJavaでオブジェクト指向開発ができないのか―Javaの壁を克服する実践トレーニング

 

(引用:書名『なぜ、あなたはJavaでオブジェクト指向開発ができないのか―Javaの壁を克服する実践トレーニング』小森裕介/技術評論社)

「誰に向けて書いているのか」をはっきりとさせることは大切です。万人受けする記事を書くのではなく、たったひとりに贈るラブレターのように書くのが秘訣です。

上の書籍では「Javaプログラミングのオブジェクト指向開発で悩んでいる人」がターゲットなのは明白です。

ここまで想定読者を絞り込むのならば、記事はぐっと書きやすくなるでしょう。

 

3.当事者意識を持たせる

楽曲が鳴る場所であなたが何らかの代金を支払ったなら、その一部から音楽著作権使用料が支払われているとみてよい。

(引用:あなたが知らずに負担している音楽著作権使用料の行方:日経ビジネスオンライン

 上の記事では「あなた」という二人称を多用しています。

そうしなければ《音楽著作権使用料》に関心を向けさせることが難しいからです。

ポイントは、当事者意識。

《あなた》を主人公にした二人称文体で記事を書くことで、(強引ではありますが)読者を巻き込んでしまうのです。最後まで読ませたものなら大成功でしょう。

 

呼びかけ法よりもさらに相手を揺さぶる『設疑法』

単に「あなた」と呼びかけるよりもさらに強い効果を持つ技法が設疑法(せつぎほう)です。

設疑法では、読者に「あなたは○○ですか?」と疑問を投げかけるに留まりません。

「あなたは○○だよね! そうでしょ!!」と、暗に答えまでをも出させてしまう非常に強いレトリックです。

この設疑法をうまくタイトルに活かしたブログがあります。

 

まだ東京で消耗してるの?

(著者:イケダハヤト http://www.ikedahayato.com/

 

「まだ東京で消耗してるの?」のタイトルには隠されている主語があります。

それは《あなた》です。

正確に記すならば「あなたはまだ東京で消耗してるの?」となります。

 

これはただの疑問文ではありません。

「そうだよ……俺は東京で消耗してるよ……」

「田舎でのんのんびよりしたい……」

という読者の《同意》を引き出すことを目的とした疑問文なのです。

もっといえば、この文章には「あなたは東京で消耗すべきではない」という著者の主張が篭められています。

 

疑問文の形式に見せかけておいて、暗に主張を伝えている。

このようなレトリックは、相手を説得するのに絶大な威力を発揮します。

 

余談:ダブル・バインド

 少し話からは外れますが、ダブル・バインドと呼ばれる催眠誘導法があります。

これも疑問文で相手の心理を誘導しようとするテクニックです。

(例)

販売員「パソコンをお探しなんですね、A社製品にしますか? それともB社製品にしますか?」

(どちらからも買わないという選択肢が設疑から抜け落ちており、相手はA社かB社のどちらかを購入するように誘導される)

 

評論家「なぜアニメオタクは結婚をしたがらないのか?」

(設疑には根拠となるデータが一切無いにも関わらず、読者はアニメオタクが結婚しない理由について考えさせられる)

※ゆえに、『なぜAはBなのか?』といった形式の問いが発せられた場合、疑問の答えを考えるまえに、設疑の前提を徹底的に疑ってかかる必要があります。

 

 

設疑法を用いた記事は、「あなた+なぜ」「あなた+どうして」などの複合キーワードで検索をかけてみると見つかります。

タイトル「あなた なぜ」を検索 - はてなブックマーク

 

こうしてみると、「呼びかけ法」と「設疑法」はライターの好んで用いるレトリックであり、読者の心を掴んでいる記事が多くあることが窺えます。

 

呼びかけ法、設疑法の欠点

強い言葉には、リスクがあります。

読者に「あなた」と呼びかける技法は、相手の感情を揺さぶりやすいのですが、それが必ずしもプラスに働くとは限りません。

強力なレトリックであればあるほど、裏目に出やすいのです。

 

例えば、《就職活動で悩んでいるキミへ伝えたい》というタイトルの記事に就活生が訪れたとします。もしもその記事内容が、上から目線の断定調だったらどうでしょう。心は揺さぶりますが、買うのは反感だけです。

『くっ、知ったようなことを書きやがって、貴様に俺の何がわかる!!』とマイナス方向に感情が動かされてしまうのです。

 

「呼びかけ法」とは本来、相手の立場に寄り添い、読者に親しく語りかけるためのレトリックです。相手に直接呼びかけようとする以上、何らかの配慮が必要となります。

 

実際にこのレトリックを使うときは、文中に用いた「あなた」を「わたし」に置き換えてみると良いです。ブーメランのように、言葉がそのまま自分に跳ね返ってくると想像してみます。

そうして読んでみて、(自分で自分に)カチンと頭に来るような場合には、呼びかけ法を使うべきではありません。

自分が言われて不快な言葉を投げかけない――のは至極当たり前なことかもしれませんが、呼びかけ法の魔力に取り憑かれると、しばしば大切なことを忘れてしまいます。レトリックは使い方を誤ると、恐ろしいです。

 

「呼びかけ法」は小説のなかでも用いられることがあります。

私が真っ先に思い浮かぶのが、江戸川乱歩です。

妖怪博士―少年探偵 (ポプラ文庫クラシック)

読者諸君は、小学生の泰二君が、こんな探偵みたいな真似をするのは変だとお考えでしょうね。

(引用:『妖怪博士 (少年探偵) 』江戸川乱歩/ポプラ社)

江戸川乱歩は「読者の諸君」と呼びかける方法を好んで使いました。メタっぽくなるので小説で呼びかけ法を用いるのはとても難易度が高いのですが、少年探偵・怪人二十面相シリーズの文体は大好きです。

怪人二十面相は、私が小学生のときに夢中になって読みましたが、子どもでも謎解きが楽しめるようにと、作中ではさまざまな配慮が為されていたことが分かります。

「読者諸君!」と呼びかけを物語のなかに挟むのも「読者が迷わないように、楽しめるように」と考えたうえでの親切設計なのだと実感します。

 

まとめ

レトリックというと、メタファー(暗喩法)などの難しいものをイメージします。

しかし「呼びかけ法」の使い方はシンプルで、具体的な読者を想定して「あなた」と呼びかけ、文章を書くだけです。

《感情を揺さぶる》という効果もなかなかに絶大で、著名なブロガー、ライターさんのなかでも好んで使っている方も多いのではないかと思います。

 

ただし使いやすい反面、裏目に出やすいレトリックでもあります。

言うなれば諸刃の剣なので、取り扱いは慎重に。

『読者の心を操るための道具』としてレトリックを用いると、痛いしっぺ返しを食らいます。優しさのないレトリックは、誤魔化しに過ぎません。

 

逆に読者の立場であれば「なぜ、あなたは○○なのか/○○できないのか」のようなダブル・バインド×設疑法を用いた記事に対しては、半信半疑、質問の前提を疑って読むことで、騙されにくくなります。

医療、健康、法律、政治、科学、何でも当てはまりますが、レトリックが多用されているような(いわゆる"うますぎる")記事は要警戒で、「ほんまかいな!!」「なんでやねん!!」とツッコミを入れつつ読むくらいで調度良いかもしれません。

 

最後に。

「言葉は自分に跳ね返ってくる」とどこかに書きましたが、文章術について書くとブーメラン効果が発動するんですよね。

「こうすれば文章はうまくなる!!」(キリッ みたいな記事を書いて、『えっ、でもこの記事の文章力ってたいしたことないよね』みたいな容赦無いコメントが飛んでくるとか。

 

ブログネタで文章術を扱うのは、正直なところ恐ろしいものです。

くわばらくわばら、精進します。

 

(おわり)

 


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