ワケギを切るのもタマネギをレンジにかけるのも涙がボロボロ零れる
ワケギでも涙は出るという話
家族3人分の料理を任せられる私としては、なるべく楽をしたいのが道理で、この頃は「野菜の冷凍保存」に凝っている。タマネギやニンジンを予めスライスしてからラップに包んで、小分けに冷凍しておく。するとカレーやシチューを作るときの「時短」ができ、味もさほど落ちない。
先日、スーパーを歩いていて、ワケギの大袋が100円で安売りされていた。私は今までワケギを青ネギの妹か何かだと思っていたのだが、ちょっと違った。ウィキペディア先生によると、ワケギは「ネギとタマネギ」の雑種なのらしい。
さておき、買ったワケギを買い物バッグに入れて揺らしているうちに、ルンルン気分。初音ミクのIevan Polkkaを脳内再生しながら、閃いた。今日のうちに全部まとめて、ワケギをみじん切りにしてしまおう。それをジップロックで冷凍保存しておけば、当分はネギを切る煩わしさから解放されるぞ。
御存知の通り、ネギは日持ちが悪い。野菜室で1週間も寝かしておくとヘニャヘニャ~と元気を無くし、先端から枯れたようになってしまう。かといって(スーパーで売ってる)事前にみじん切りしてある「葱パック」は消費期限が1~3日と短い。どうにも扱いづらいし、値段も高い。
帰ってさっそく、まな板の上にワケギの束をどっさりと置く。包丁でみじん切りにしていく。ところでどうしてネギと言う奴は、まな板の上からコロコロと転げ落ちていくのだろう。
そんなことを考えながら、タン、トントン、と切っているうちに、涙がボロボロと零れ出す。
私は眼鏡をしている。普段はネギを切ろうがタマネギを切ろうが滅多なことでは涙が出ない。なのに、ワケギの山と向かい合っているうちに、涙が止めどなく溢れ出てきた。恋をしているのかな、と思った。そうでなければ、まな板から落っこちるワケギの子の悲しみが乗り移ったのだろう。
あとで、ネットで検索をした。ワケギがタマネギの仲間だと知ったのはこの時だった。普段は切る量が少なかったので気が付かなかったが、ワケギといえど大量に切れば揮発性の硫化アリルが目に染みるのだそう。
ワケギをいっぺんに切る際にはご注意あれ。
タマネギレンジは恐ろしいという話
同じくネットで「タマネギはレンジで温めてから切ると涙が出ないよ!」という極秘情報を入手した。私はへぇーっと思った。じつは、以前にアニメでみた「ふらいんぐうぃっち」の料理好きな男の子も同じことを言っていた。
私の認識では、タマネギは「切ったあと」にレンジにかけるものだ。「切る前」にレンジにかける発想はなかった。タマネギを切ったあとに耐熱容器に入れてラップをふわりとかけ、レンジで3分ほど温めると、柔らかくなって料理の時短ができる。これはよくやる。
さておき、ネットの情報を鵜呑みにした私は、やってみようと考えた。
タマネギを半分に切って、レンジの中へ。耐熱容器に乗せる。ターンテーブルがクルクルと回るのを見届けて、1分間(温めすぎた)。昔のレンジは「チンッ」と小気味良い音で知らせてくれたのだが、最新のに買い換えてからは「ピピー、ピピー」と鋭い音で終了の合図をするので、私はびっくりしてしまう。レンジに風情を求めるのは酷か。
タマネギを取り出してみると、モクモクと蒸気が上がっている。(ほう、これはすごいな……焼き芋みたいだ)と思った私は、真正面からタマネギを覗き込んだ。
立ち昇る蒸気。
見開く瞳。
鼻は大きく空気を吸った。
刹那――、私は鼻腔の奥に、いたたまれない何かが暴れだすのを感じた。
ゲホゲホと咳き込むも、涙が止まらない。
くっ……これは孔明の罠!!
レンジ恐るべし。
おのれネットのいい加減な情報め!と拳を振り上げるも、今にして思えば(目論見通り)気化させたはずの《硫化アリル》。この催涙成分を多分に含んだ蒸気をわざわざ吸い込みにいったのは、愚かな私自身であった。
タマネギで涙を出さないクックハックには、レンジで温めるのとは逆に「切る1時間くらい前に冷蔵庫で冷やしておく」というものもある。
私としてはこちらが気に入っている。
あと、包丁を研いで切れ味を良くした。タタタタタタターンとリズミカルに切る手法をマスターしてからは、タマネギに泣かされることは無くなった。料理を楽にするならスピードとストックを究めるべしだと感じた夏の日暮れであった。
(終わり)