幼女 vs サンタクドウスル(第26回『短編小説の集い』参加作)
クリスマスの夜。ユキはベッドに潜り込んで、寝たふりをする。
多くの子どもたちがそうしたように、来訪者がやってくるのをそわそわと待っていた。
やがてリン、リン、リン、と愉快な鈴の音が近づいてくる。鈴の音がユキのすぐ頭の上で《リン》と鳴り響いたような気がして、ユキは思わず目を開けた。
続きを読む文章にユーモアを与えるレトリック「誇張法」の使い方
誇張法はユーモアの修辞技法です。何かを大げさに表現することで文章に面白味を加える、あるいは語り手の心理・感情・思考を強調するときに使います。
たとえば常套句では、次のようなものが誇張法にあたります。
- あまりの美味しさにほっぺたが落っこちそうになった
- ラクダが針の穴を通り抜けるよりも、ずっと難しい
- 風よりも速く駆けてきた
原稿の推敲・校正・リライトを支援する8つの文章チェックツールを作りました!
お久しぶりです。タロットプロット広報担当の海鳥まきです。このたび、タロットプロットに8つの文章チェックツールを追加しました。
原稿の推敲・校正・リライト作業を支援するためのツールです。お役に立てるかどうかは分かりませんが、なかなかに面白いものができました。
(※記事投稿時は3種類でしたが、その後ツールが5つに増え、さらに8つに増えました!)
続きを読む「てにをは連想表現辞典」てにをは辞典との比較レビュー
さて、小説書きの辞書レビュー第二弾として今回は「てにをは連想表現辞典」をご紹介したい。てにをは連想表現辞典は(タイトルが紛らわしいものの)2010年出版の「てにをは辞典」の姉妹辞書にあたる。
結局のところ「てにをは連想表現辞典」と「てにをは辞典」は何が違うのか。どちらがおすすめなのか。購入を検討する人は悩むわけで、私も同じだった。
そこで私は(出版社の狙い通りか)両冊とも購入してしまったわけだけれども、当記事では2つの辞書を比較していこう。
続きを読むショートショートのネタ出しに最適の「即席アイデアメーカー」を作りました!
ショートショートを書く秘訣
ショートショートで面白い話を考えるには、とにかくたくさんのネタを出していくことが大切です。100のアイデアがあったとしたら、そのなかで使えるのは1か2くらい。良いアイデアを見つける秘訣は、圧倒的な《量》のなかから《質》で厳選することです。
量より質でもなく、質より量でもない。量×質なのです。
では数多くの創作ネタを見つけるためにはどうすれば良いのか。
続きを読む「「「多重鍵括弧」」」の是非と複数人が同時に話す描写の書き方
「多重鍵括弧」とは鍵括弧を重ねて用いることにより、複数人が同じ台詞を重ねて発したように読解させる修辞技法のひとつである。
例えばN氏とS氏とZ氏が同時に「やっほー」と声をあげるシーンで
「「「やっほー」」」
続きを読む小説における俯瞰・アオリ・遠近法の描写例(序次法のレトリック)
例えば漫画を勉強している人は、ストーリーやキャラの作り方に加えて、画力アップのための描写技法を学んでいます。コマ割り・人物パース・遠近法などですね。
「描く」か「書く」かの違いはあれど、小説の描写においても遠近法・アオリ・俯瞰を書くための技法があります。今回は描写術の基本中の基本。序次法のレトリックを学びます。
1.俯瞰で描く
このようにビルの屋上から街を見下ろしているようなシーンで使われるのが俯瞰です。俯瞰を効果的に描写している具体例を挙げてみます。
街を見おろすような位置にある、ひときわ高いそのビルの屋上に、ちっこい塊のような人影がひとつ、丸まるようにして座り込んでいた。
(引用:上遠野浩平『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド』p.23 電撃文庫)
簡単そうに思えて、しかし意識しなければ書くことのできない一文です。上記描写における役割を3つに分けて考察していきます。
1-1.視点(カメラ)の固定
『街を見おろすような位置にある』は、読者のイメージする視点を俯瞰図に固定するための表現です。この文章の効果により、上空から街を見おろしているようなイメージが想起されます。
1-2.位置の固定
『ひときわ高いビルの屋上に』は、イメージされる場所の位置を明確にするための表現です。屋上と一言に述べても、学校の屋上や展望台、アパートの最上階など色々ありますので、ここで場所と高さをはっきりさせておきます。
1-3.描写対象の固定
『ちっこい塊のような人影がひとつ、丸まるようにして座り込んでいた。』
屋上の上に座っている人物のやや背後にカメラを置いて、これからこの人物を描写することを示す一文です。
ポイントは、流し読みしたときに「人物がビル屋上から街を見おろしている」イメージが想起されることです。文中の「街を見おろす」にかかる主語は「ビルの屋上の位置」にあたりますが、実際に読者が読むときの体感では「ちっこい塊のような人影」こそが街を見おろす主体となるのです。
と言っても、これだけでは当該描写の何がすごいのかがわかりづらいので、比較対象として悪例を載せてみます。以下の描写は私の書いたものです。
悪例A 視点の不在
ビルの屋上から小さな人影が街を見おろしていた。
カメラ(視線)が屋上を見上げているのか、人影を見おろしているのか、一切読み取ることができません。また、描写主体が人影にあるのか、人影を観察している人物にあるのかを読み取ることができません。
読者にシーンをイメージさせる意図としては不十分な描写であり、何らかの補足が欲しいところです。
悪例B 視点の混在あるいは無意味描写
不気味な赤味を帯びた空の下、ビルの屋上に人影がひとつ、街を見おろすようにして座り込んでいた。
『赤味を帯びた空』は見上げる視点であり、『街を見おろすように』は見下げる視点です。視点が混在することにより、『人影が街を見おろしている』というイメージを強調しづらくなっています。
ここでは、果たして本当に空の様子を描写する必要があったのか、が問題となります。
俯瞰ではない例
屋上を吹き抜ける風にあおられ長い髪がなびく。落下防止用の柵の向こうに座り込むようにして、少女は街を見おろしていた。
これは描写としては然程おかしくはないかな、と考えています。
ただし視点は俯瞰ではなく、少女を真横あるいは斜め後ろ方面から観察しているような印象になるかと。
まとめますと、シーン始めの描写では下記の点に気をつける必要があります。
- シーンを描く《カメラ》の位置と方向を意識すること
- 描かれる《場所》を明確にすること
- 主体となる《描写対象》を明確にすること
【発展編】序次法のレトリック
さて、もう一度、先の引用例文を読み返してみましょう。
街を見おろすような位置にある、ひときわ高いそのビルの屋上に、ちっこい塊のような人影がひとつ、丸まるようにして座り込んでいた。
(引用:上遠野浩平『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド』p.23 電撃文庫)
上記文章では序次法(じょじほう)と呼ばれるレトリックが用いられています。序次法というのは、簡単に言えば《描写する順番》に気を配る手法です。例えば「手前→奥」「大きいもの→小さいもの」と順番に描写を重ねていくことで、文章が読みやすくなります。
例文では
- 街(大きい/広い)
- ビルの屋上(小さい/狭まる)
- ちっこい塊のような人影(さらに小さい/さらに狭まる)
大→中→小と次第に描写範囲が狭まっていることが分かります。上空に撮影用ヘリコプターを飛ばして、そのカメラで「街→屋上→人影」とズームインしていく様子を想像してみてください。
序次法の基本はズームインです。ライトノベルであっても純文学であっても、この手法に差異はありません。
先日の記事「小説の描写に《動き》を与える方法 - ときまき!」では、夏目漱石と太宰治の作品を例に、序次法について考察をおこないました。こちらを合わせて読むと、より理解が深まることでしょう。
2.アオリで描く
このように下から上を見上げているようなシーンがあおりです。
俯瞰の項で引用した『ブギーポップ沈黙ピラミッド』では、ヒロインがまさに鉄塔を見上げるシーンの描写も登場します。
それが以下の文章。
空に掛けられている電線よりもさらに上の位置、そのてっぺんのところに、普通はあり得ないものが、当然のように座っていた。
(引用:上遠野浩平『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド』p.55 電撃文庫)
※文脈補足。そのてっぺん=鉄塔のてっぺん
ここでのポイントも『空に掛けられている電線よりもさらに上の位置』という表現。視線の動きとして「電線→さらに上の位置」と移動させることにより、鉄塔を見上げるイメージを沸き起こしています。
下から上へと、カメラが見上げていくイメージです。これも同様に序次法が使われています。
- 空の電線(低所/範囲:広)
- 鉄塔のてっぺん(高所/範囲:中)
- 座っているあり得ないもの(最高所/範囲:狭)
見上げて、さらに描写対象へとズームインしていくのが読み取れるかと思います。
余談ですが、今回引用しました『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド』はシリーズ物の続編にあたるため、もしご興味のある方がいらっしゃいましたら第一巻の『ブギーポップは笑わない』から読み始めることをおすすめします。
初版は1998年です。私が読んだのも中学生くらいのときで、とても懐かしい……。ライトノベルを語る上では絶対に外せない、名作中の名作です。
閑話休題。
3.遠近法で描く
漫画のパースや美術の授業でおなじみの一点透視図法、二点透視図法、三点透視法などなど。
小説では「道」に関する描写をするときに、遠近法がよく使われます。
今現在居る場所から目的地の場所を眺めるのであれば、基本的には「近く」から「遠く」の順に描写していくことになるでしょう。
繰り返しますが、手前から奥へ、近くから遠くへとフォーカスしていく描き方は、序次法の基本です。必ずしもこう書かなければならない!というわけでは決してないのですが、「型破り」をするためにも基本の型を知っておくことは大切です。
分かりやすい例文を見てみましょう。
いつ舗装したのかも分からない、所々罅割れて短い草まで生えている風化した農道の端は、風に揺れる瑞々しい色の雑草が伸び、緑に縁取って、向こうの里山まで続いている。
(引用 甲田学人『ノロワレ』 p.11 電撃文庫)
※補足:罅割れる(ひびわれる)、瑞々しい(みずみずしい)
まさにこれなんですね、うまいなぁ……と感じます。
- ひび割れた舗装・短い草(手前/近距離)
- 農道の端、瑞々しい色の雑草(少し視線が離れる/中距離)
- 向こうの里山(遠距離)
と基本に忠実に描写されています。カメラがズームインしているのとは少々異なるものの、主人公がこれから向かう先の「里山の方角≒描写対象」へと視点が移動していきます。
また、上記文章では序次法に加えて転置法(語順を乱すレトリック)も使われていますが、今回はひとまず置いておきます。
序次法は「描写する順序の重要性」を教えてくれます。例えば下記のように、描写する順番を入れ替えてみると、まったくの無意味描写となってしまいます。
悪例
向こうの里山まで続く農道の端には、罅割れたアスファルトから伸びた雑草が頭をもたげて風に揺れているのだった。
これだとイメージが頭に入ってこないうえに、何を描きたいのかさっぱり分からなくなる。描写に遠近法が生かされていないとこのようになります。
引用作の描写だと「手前から奥へ」と視線が流れるのに対し、悪例は「奥へ向かう視線」と「手前へ向かう視線」とが混在しているわけです。
4.まとめ
なんか色々と知ったかぶって書いてしまいましたが、創作技法や理論云々よりも実践あるのみで、書いて書いて書きまくることが大切ですね。(ワナブーメラン
とはいえ、レトリックを知れば描写が格段に書きやすくなるのは事実です。
「基本は手前から奥へ。一貫した視線の流れを描く」を意識してみましょう。また、こうした意識を向けて小説を読んでみると(おっ、この著者はわざと序次法の型を外してきているな)といったことも見抜けるようになります。
ということで小説描写のお役に立てましたら幸いです。
(終わり) 執筆・改稿/海鳥まき ※旧筆名オロロン
※記事中の写真はCC0 パブリック・ドメインの写真素材サイトpixabay.comからお借りしたものです。
小説の描写に《動き》を与える方法
「小説の描写に動きがほしい!」と思ったときは、以下の2つを意識しましょう。
- 結果ではなく過程を描くこと
- 動作を分割すること
ここでは私の書いた文章を「悪例」、実作品の描写を「好例」として、比較しながら解説していきます。まずは描写がのっぺりとしている「悪例」から。
悪例1
彼女はテーブルの上に置かれていた箱から、銀色の輪っかを取り出した。(例文)
上の文章では「女性が箱から輪っかを取り出す」という結果を書き急ぎすぎています。読者に情報を伝えることは大切ですが、情報開示はワンテンポ遅らせるのが秘訣です。
プロの小説家は、次のように描写します。
☆好例
彼女は、テーブルの上に置かれていた箱を引き寄せ、蓋を開いた。中の透明なビニール袋を取り出す。袋には銀色の金属製のわっかが入っていた。
(引用『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』梶尾真治/光文社)
「箱からわっかを取り出す」という動作を「引き寄せる」「蓋を開く」「ビニール袋を取り出す」の3つに分割しています。ここにリアリティと動きが生まれます。
はっきり言って、いちいちこのような細部を意識して描写するのは(書き手としては)面倒に感じる作業です。だからこそ、ただ何となく楽に楽にと思考のままに書いているだけでは、上記の描写はできません。
名文ではない、一見して何の変哲もない描写にこそ、工夫が籠められています。
悪例2
彼女は、木目調のテーブルの上に置かれている黒の高級そうな箱のロックを外し、中からジッパーで密閉されたビニル袋を取り出した。袋のなかにはステンレス製だろうか、直径十センチほどの銀色のわっかが入っていた。(例文)
別の悪例を書いてみました。
過剰描写の例です。読者に伝える必要のある情報以外の描写に力を入れると、途端にリーダビリティが落ちます。
動きを出すのが目的であれば《行動描写》のみを分割してみることが大切かもしれません。
悪例3
彼女は箱の中から銀色のわっかを取り出した。その時点で俺には嫌な予感がしていた。囚人にとって《輪》とは、手錠や足かせをはじめ、拘束具を意味する。では目の前のリングは、その大きさから鑑みて首に着用する首輪ではないのか。俺は恐怖にわなないた。(例文)
心理描写を付け加えた例です。心理描写によって、先の展開のネタバレをするのは、まずやらない方が良い(ベター)です。
「箱から取り出した輪っかをどう使うのだろう?」という好奇心が読んでいる最中に生まれ、それが読者にとっての推進力となります。意図的にミスリードを誘うのならまだしも、下手な《予測》を心理描写中に入れると読み進める楽しみを奪ってしまいます。
読ませる描写において「情報を待機させる」という考え方は非常に重要なポイントとなります。(小説に限らずセールスレターやコピーライティングの世界でも、情報待機のレトリックが用いられます)
「動作を分割させる」をもっと詳しく
他作品の例も挙げてみます。
私は墓地の手前にある苗畠の左側からはいって、両方に楓を植え付けた広い道を奥の方へ進んで行った。するとその端れに見える茶店の中から先生らしい人がふいと出て来た。私はその人の眼鏡の縁が日に光るまで近く寄って行った。そうして出し抜けに「先生」と大きな声を掛けた。先生は突然立ち留まって私の顔を見た。
(引用『こころ』夏目漱石/青空文庫)
結果だけを描くのであれば「墓地近くの茶店で先生を見かけたので声をかけた」の一文で事足りる。それが小説となると(上の文章の場合)146文字まで引き伸ばされるわけです。
「先生に声をかける」の結果に至るまでのプロセスとして、「苗畠に入る」「道を進む」「茶店から先生が出て来る」「近寄る」と分けて分けて描写する。しかも決して無意味な情報の羅列ではなくて《私》のストーカー気質な性格だとか、先生の暗い過去を匂わせる《墓地》というキーワードだとか、いろいろと仕込まれている。
さらに細かいことを述べると、上記の描写は「手前から奥へ」視点をフォーカスさせることによって動きを持たせています。
- 苗畠(手前)
- 両方に植え付けられた楓(少し奥)
- 端れに見える茶店(最奥)
- →先生に寄っていく(再びズームイン)
「手前から奥へ」の順序で描写する手法を序次法といいます。小説の基本テクニックのひとつですので、覚えておくと役に立ちます。序次法については次記事で詳しく解説をします。
描写では(動作の主体となる人物の)視線の動きを意識して描くと、格段に良くなります。基本は近くから遠くへ。
午後の三時頃で、冬の日が、お庭の芝生にやわらかく当っていて、芝生から石段を降りつくしたあたりに小さいお池があり、梅の木がたくさんあって、お庭の下には蜜柑畑がひろがり、それから村道があって、その向うは水田で、それからずっと向うに松林があって、その松林の向うに、海が見える。海は、こうしてお座敷に坐っていると、ちょうど私のお乳のさきに水平線がさわるくらいの高さに見えた。
(引用:『斜陽』太宰治/青空文庫)
「いい景色だった」で終わるところをここまで分割して詳細に描くのが、小説の技法です。これもやはり「手前→奥」へと視線が移動していきます。
芝生→石段→池→蜜柑畑→村道→水田→松林→海へと、奥へ奥へ。風景そのものは一枚画として写真にも収まるものでしょう。しかしこのように手前から奥へと順番に進んでいくことで、映画やアニメのような動きを持った情景描写となります。
それにしても、太宰治はなかなか描写が色っぽいんですね。人間失格が代表作として語られていますが『斜陽』『パンドラの匣』『女生徒』『グッド・バイ』あたりを読むと印象が一変しますよ。
まとめに入ります。
- すぐに結果を描くのではなく、まずは過程を描く(情報を待機させる)
- 動作を分割させる(輪を取り出す→箱を引き寄せる/蓋を開く/袋を見せる)
- 視線を分割させる(手前から奥へ ※視線分割の技法は、次記事の序次法のところで詳しく書きます)
『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』のレビュー
今回、最初に引用に用いた作品『ボクハ・ココニ・イマス 消失刑』(梶尾真治 著)について簡単に感想を書こうと思います。
『消失刑』というのは、簡単に言えば受刑者を透明人間にしてしまう刑罰のことです。消失刑を受けると、受刑者は誰からも姿を視認されなくなり、会話や文章によるコミュニケーションはおろか、人に近づくことさえできなくなってしまいます。
そのうえ、(刑罰なので当然ですが)銭湯で覗き見するなどの犯罪行為はできないようになっていますし、テレビなどの娯楽も禁止されます。
このような「対象をぼっちにする!」刑罰である消失刑を受けた主人公を軸に物語が進みます。作品全体のテーマは《孤独》です。
書き手視点から視たすごいところ
本作は『主人公は誰ともコミュニケーションを取ることが許されず、一切の(エキサイティングな)犯罪行為を取ることができない』という設定を守って書かれている、ある種のシミュレーション小説です。
これ自体が、すごい。
小説とくにエンターテイメント小説は、どんな形であれ、主人公のコミュニケーションによって物語が進みます。《コミュニケーション禁止》の縛りはなかなかに、書き手としてはきつい。大変難しい。
透明人間になってエロいことができるならともかく、本作の主人公はそもそも他者の半径一メートル以内に近づくことさえ許されません。そんな、他者と一切の接触を禁止された状態で、どうして話が進展していくのか。
人間関係を描くことで《孤独》を表現するのは難しくありません。いじめだとか、仲間の裏切りだとかを描きます。しかし、他者からその存在そのものを無視される《孤独》を長編原稿で書くのは、うむぅ……何とも骨が折れる。
コミュニケーションのない小説なんて、ふつうに書いていて面白くなるはずがない。それを最後まで読ませてしまう筆力は評価されるべきだと感じます。
(終わり) 執筆・改稿/海鳥まき ※旧筆名オロロン
ホラ吹きの語る《希望》は…(はてな題詠「短歌の目」第11回9月)
はてな題詠、参加はこれが2回目となります。第二期スタート、とても嬉しいです。
今回のテーマは「秋」ですね。肌寒くなってくると心なしか憂鬱になったり孤独を感じたり、そんなときこそ短歌を詠みませう!
1. 星
承認に飢えし星喰いブクマする スターください! 紫スターで!
2. 吹
ホラ吹きの語る《希望》は虚構だが命を救うプラセボもあり
3. はちみつ
人生は甘くないとか言う奴にぶっかけてやれハチミツの壺
4. 川
川の字になって寝ている三角の恋にもつれた男女三名
5. 秋刀魚
リスカする私を見てる秋刀魚の眼 死んだサカナと死にたいワタシ
テーマ「秋」(5首)
6
「恋がしたい」ポテチを食べてソファに寝て 秋アニメ見て想う夜更けよ
7
残業を終えた靴先山へ向く 冬眠したい クマになりたい
8
足元に落ちた紅葉とアスファルト 黒いスーツが似合わぬ自分
9
真っ白のシーツかぶってダンスする ハロウィンの夜わたしはひとり
10
明日から本気を出すと決意して 十ヶ月経ち気がつけば秋……。
ありがとうございました。
前回詠んだ短歌
(終わり)