ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

私撰、刺激的な小説(暑さを恐怖で吹っ飛ばす厳選12冊)

あついねー、あつくて溶けてしまいそうやわ。

生まれ変わったらクラゲになりたい……。

 

画力が溶けてる!!!

きょう紹介するんはアレやね、あれあれ。

本読んだから、えーっと、おすすめのを、えーっ、読書の夏ってことで……いやしかし読んだ本って1年も経てば記憶からすっかり抜け落ちて感想書けへんのやけどな、ぶっちゃけ。

筆力も溶けてる!!!

私的に読んで良かったと思える刺激的な小説まとめ

※昔に読んで内容を忘れているものが多いためあらすじ紹介はできない。でも良かったことは覚えているんだ……。

※刺激的/暑さを恐怖で吹っ飛ばす、とはいっても、紹介する作品はホラーとは限らない。ホラーではないが、痺れたりぞっとしたり打ちのめされたり憂鬱になったり心を闇のなかにずぶずぶと沈めてくれそうな素晴らしい小説も紹介していきたい。

1.黒冷水(羽田圭介)

 兄弟、姉妹がおる人は「あるある」と思うやろけど、妹とか弟って、兄姉の勉強机の中身をこっそり覗いたり荒らしたりするやろ?(うちは「机荒らし」って呼んでるけども)『黒冷水』は、兄弟間の「机荒らし」が次第にエスカレートしていくホラーテイストな話なんや。

 書かれたのは2003年。当時はネット上のエロ画像(動画やったかな?)を保存するのに何時間も待たんとあかんかった云々っていう、時代を感じる描写が作中にちらほらあったり懐かしい。何にせよ、描写の圧倒的リアリティやね。弟の兄に対する劣等感、兄の弟に対する優越感、この2つが鮮明に醜悪に描かれている。

 ヒューマンホラーといってもええのんかな。人間の醜い部分を克明に映し出す。

 ちなみに著者の羽田圭介さんは、今回、又吉直樹さんと一緒に芥川賞獲った人やで。受賞作はまだ読んでないけども、好きな著者さんが受賞するのは一読者としても嬉しい限りやね。


黒冷水 (河出文庫)

2.追想五断章(米澤穂信)

 米澤穂信さんといえば、アニメ化された『氷菓』や映画化された『インシテミル』の方が有名かな。

 個人的には米澤作品のなかでは『追想五断章』を推したい。作中に5つの《作中作》が登場するのんやけど、これがとても痺れた。著者は天才かと打ちのめされた。

 大学生活とか、就職活動に失敗した人であれば、作中の主人公のやるせなさに非常に共感してしまうのではないかと思う。もちろん本筋は《謎解き》であり、そのなかで主人公の人生は物語の枝線に過ぎないのだけれども「主人公になりきれない主人公」の描き方がほんとに心に沁みる。

 思えば『インシテミル』の主人公も、わりと主人公になり切れていない感じがあった。「自分の人生の主役は俺自身だ!!」と胸を張って言える人は少数派で、多くの人々(主語が大きすぎる! えーい、私のことだよ!!)は「自分は所詮、凡人で脇役で、どうしようもない雑魚キャラだ……」といった葛藤を抱えて生きている。

 追想五断章の主人公は、(探偵役でありながらも)そんな凡人でも共感し自己投影できるキャラで、良かった。

3.バイロケーション(法条遥)

 法条遥さんは、うちが現在もっとも注目しているホラー作家のひとり。彼女(彼?)の著作はぜんぶ読んだ。人を選ぶけれどもとてつもない中毒性がある。

『バイロケーション』は、第17回日本ホラー小説大賞受賞作。

 賞投稿時のタイトルは

『同時両所存在に見るゾンビ的哲学考』

(出版時に『バイロケーション』に改題されたが、個人的には元のタイトルの方が好き。

 とにかく、同時両所存在に見るゾンビ的哲学考!!!!!

 このタイトルに心惹かれた人は、間違いなく本書を取って後悔しない。特に、小説を書いたり絵を描いたりする人(プロ志望)には限りなくおすすめできる。

 今までに読んだすべての小説のなかでもベスト10に入る作品。

 題材は『ドッペルゲンガー』

 なぜ私が、小説を書いても書いても万年一次落ちなのか、どうして私はこんなにも暗い人生を歩んでいるのか、その答えが本書には書かれてある。といっても自己啓発書ではなく、本書はホラー小説なのであるが……。

4.存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ 訳:西永良成)

 私が生涯のうちに読んだ全ての書物のなかで、もっとも深く精神を揺さぶられた書。

 千野栄一訳と西永良成訳の2つが出版されており、訳者によって文体のテイストがかなり変わってくる。(のでお好みで。私は河出書房新社の西永良成訳が気に入っている)

 作中冒頭でいきなりニーチェの永遠回帰の話が出てくるので度肝を抜かれるかもしれないが、とにかく読み進めて欲しい。読み終えた頃にはセカイが変わっている。そして実存的恐怖(自分が今ここに存在しているという恐怖)に打ち震えることだろう。


存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)

5.ドグラ・マグラ(夢野久作) 

 脈絡のない読書紹介が続く。

 ってあれ、気がついたら途中で文体が変わってたわ。

 アハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。

『ドグラ・マグラ』は、日本三大奇書のひとつで、読むと発狂するとか何とか言われている。

 でも安心してほしい。本書は純粋なる推理小説であり、読んでも決して気が狂うことなどない。(今ここにいる《私》が誰なのか、という謎を解かない限りは)

 ただ夢野久作の文体は極めて破壊力が高いため、小説書きが読むと影響を受けてしまう危険性はある。


ドグラ・マグラ

6.Nのために(湊かなえ)

 これはドラマ化されて話題になってた作品。《作中作》の痛い感じが好き。ミステリ。

 湊かなえさんの著作を読んだことのある人なら知ってると思うけれども、彼女の作品は非常に後味が……、……。そこが病み付きになるのやけども。


Nのために (双葉文庫)

7.薬指の標本(小川洋子)

 小川洋子さんといえば、芥川賞受賞作の『妊娠カレンダー』、そして映画化もされ本屋大賞に選ばれた『博士の愛した数式』を書いた人。

 短篇集のなかでは『薬指の標本』が好き。わりとホラーテイストな話。

 文章が感動するほど美しい。美しすぎて痺れる。恋してしまう文体である。


薬指の標本 (新潮文庫)

8.断章のグリム(甲田学人)

 ライトノベルのなかで、最も崇拝している作品。もちろん、全巻読んだ。

 容赦の無いホラーである。そして作中世界のあまりもの恐ろしさに、(現実世界の私は)救われた気分になる。

 ヒロインの女の子は、炎の能力を使って襲い来る敵と戦うことになる。これだけならよくある話で「灼眼のシャナかな?」と思うのだが、その能力の発動条件がとんでもない。

 ヒロインは常にカッターナイフを持ち歩いていて、自分の手首をリストカットした《痛み》を条件に、能力を発動するのだ。

《私の痛みよセカイを焼け!!!!》みたいなことを言って、ヒロインは手首をカッターで斬りつける。ほんとにもう恐ろしい話だ。

 なお、作中では《グリム童話》に関する雑学が散りばめられていて、純粋に面白い。


断章のグリム〈1〉灰かぶり (電撃文庫)

9.ハーモニー(伊藤計劃)

  劇場アニメ化されるそうだが、まず原作を読んでおきたい。(原作派はいつだってこのように言うのだが、しかしハーモニーは小説媒体で読むからこそ良い気がするのだ)

「虐殺器官」と「ハーモニー」のセットで語られることも多いが、作品は独立していて、どちらを先に読んでも構わない。私的には「ハーモニー」の方が好きで、その理由の多くは作中にかわいい女子高生が登場するからである。

「虐殺器官」「ハーモニー」の両作とも純粋なSF小説で、それぞれ別方向のディストピア世界が描かれている。どちらの世界であっても、それは架空であって架空ではない、我々の生きる現実世界の本質的恐怖を抉っているところが、ホラーなのである。


ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 10.さみしさの周波数(乙一)

 ホラー作家のなかでは一番好きなのが乙一さん。短篇集なのでサクサク読めると思う。「さみしさの周波数」は比較的恐怖レベルの高い作品。あとは「ZOO」「GOTH リストカット事件」「失はれる物語」とかもおすすめ。

 乙一さんの描くホラー作品の特徴は、怖さだけでなく切なさがあるところ。ホラー小説なのに読後感が悪くなく、なぜかイイハナシダナーと思えてしまったり、ふと涙が溢れてしまっていたりする。

 この《切なさ》の持ち味こそが、最大の魅力であると感じる。ミステリーではないものの、乙一といえば《ある種のトリック》を非常に得意とする作家さんで、一度ハマれば病み付きになること間違いなし。


さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

11.スリープ(乾くるみ)

 同著者の「リピート」「セカンド・ラブ」「イニシエーション・ラブ」も良かった。

 上記の著作も合わせて共通するのは、ミステリー×ラブを融合させたアイロニカルな味を持つ作風であることだ。

 肝心なのは「ラブ」の部分で、恋愛描写が半端無くうまい。(それでいて本格ミステリとラブストーリーを絡めてしまうのだから脱帽である)

 恐らくこれほどの筆力があるのであれば純粋な恋愛小説を書いても相当な傑作が生まれそうなのに、あえてそうはせずに、ひねくらせてミステリーを捩じ込んでくる感じ、好きだ。


スリープ (ハルキ文庫)

 12.残像に口紅を(筒井康隆)

 昔は小説家といえば畏敬の存在であった(?)のに、今では「ふっ、これなら俺が書いた方がうまい!!」などと曰う傲慢な私が増えてきた。

 本書はそんな自惚れた作家志望に鉄槌を下す、至高の一冊である。

 もう本書を読んでしまえば、小説家に頭を上げて歩くことなんてできやしない。ただ地面にひれ伏すまでである。

世界を観測するのは《私》であるが、世界を言い表す語彙の数が、人それぞれ異なるのであれば、私は筒井氏と比べて何と色褪せた世界で暮らしてゐるのだらうかと。この小説を読んで本当に恐ろしくなつたのは、自分自身の「欠落」を自覚させられたからである。

 私が当時読書メーターに投稿した感想。

 恐ろしい恐ろしい。


残像に口紅を (中公文庫)

まとめ

なんですかこの統一感のないまとめ……。

あと文体が途中で変わってますよ……。

ええのええの。

小説の巧拙にジャンルは一切関係ない。

面白いもんは面白い、それだけや(キリッ

 

 今週のお題「読書の夏」

(おわり)


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