ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

2015年後半期 増田文学大賞(はてな匿名ダイアリー)

「はてな匿名ダイアリー」に投稿された、秀逸な創作作品の数々をご紹介したい。タイトルの通り、2015年7月~12月に投稿されたエントリーを対象とした。2015年前半期については2015年前半期 増田文学大賞(はてな匿名ダイアリー)の記事をどうぞ。 

 この記事で伝えたいことは、本当にもうただひとつ。

「増田、大好き。」

 増田文学大賞という大層な名前をつけてしまったけれども、これは僕個人から名の無き作者たちに送るラブレター(ファンレター)だと思ってもらえれば嬉しい。

増田文学大賞

 それではさっそく。一応、コメントで物語内容についても触れているため、ネタバレを避けたい人は先に元記事の方を読まれたし。

ミステリー部門

 これはもっと評価されるべき、と声を大にしてレコメンドしたい作品で、個人的にはとても気に入っている。トラックバックの方で余計な茶々が入ってしまっているのが残念だ。

 系統としては「意味がわかると怖い話」に近い。おそらく一般の人々がこれを読んでも意味不明だとは思うのだけれど、少なくとも「増田文学」の検索キーワードでここに来られた人々が読めばきっと唸り声を上げるはず。

 伏線の敷き方とそれを開示する(読者に気が付かせる)タイミングがとても上手い。冒頭で主人公が「インドア派だけどサーフィンをしている」という情報がすでに一つ目の伏線となっていて、ネタが分かってからだと嗚呼だから作者はあえてこのような書き方をしているのかと感心させられる。

連載小説部門

  1. 疲れている人
  2. それは牡蠣ではありませんよ
  3. さようなら疲れている人
  4. 最後の砦
  5. 【疲】れていたのは私

 いやはや、これはすごい。何がすごいのかと言うと「連載小説としてもショートショートとしても読める」ところ。もともと増田に投稿する以上、連載で書き進めるなんてことは不可能に近い。読者登録ボタンもなければ、作者の同一性を担保する仕組みもないのだから。

 ところがこの作者は「タグ機能」も「トラックバック機能」も一切使わずに、自らの《文章》だけを鍵として、物語の続編を書き進めている。投稿を時系列のとおりに読まなくても独立した物語として引き込まれ、しかも大いに続きが気になる。

掌編部門

 物語としての内容はとくにない。文章をやたらめったら面白くすることに特化した、レトリックレトリックした作品。その場のノリだけで書かれたらしいも、勢いが素晴らしい。馬鹿げているけれど愛さずにはいられない文章。

歴史小説部門

 増田と増田ブックマーカーを題材とした嘘歴史なのだが、文体から醸しだされるリアリティがとてつもない。まるで歴史書を紐解いているかのような錯覚に襲われる。内輪ネタと言えばそれまでなのだけれど、この文章はなかなか書けるものではない。

「僕、最近は増田文学にハマっていてね」

「ますだ? 聞いたことがないな」

「ふっ、キミ、増田文学も知らないのかね。いまや増田は日本史の教科書にも載っているんだがね」

 とか何とか適当なことを言って、このエントリーをプリントアウトしたものを見せれば、きっと騙せそうである。そのくらいに良くできた文体。

エンタメ部門

 本当であれば、本作を後半期の「増田文学大賞」とする予定だった。しかしどうやらこの文章、「はてな匿名ダイアリー」が初出ではないようだ。2004年に「あやしいわーるど」というネット掲示板に投稿されたらしい。(詳細は不詳。どういうわけか本エントリー末尾ではCC0[No Rights Reserved]表記がある)

 なので、本来はこのエントリーを「増田文学」として紹介するのは間違っている。けれども、この投稿はあまりにも傑作であり、今期に増田で読んだ文章のなかでは間違いなくベストなので、とりあえず紹介だけはしておきたい。

 文章表現、物語展開のひとつひとつをとっても、まさにホラー小説のお手本のような作品である。ことエンターテイメントにおいては「主人公がどのように変化をするか」を描くのがもっとも重要で、本作では主人公の心理の移り変わりを『ハンカチおにぎり(ドラコ)』というアイテムに投影して物語を進めている。

 あくまで物語の核は「ドラえもんのひみつ道具」でありながらも、実際に描かれているのは人間関係の変化であり人間心理の変化なのだ。作中の《アイテム》の描き方が卓越している、素晴らしい文章作品。

青春小説部門

 文章表現としてはそこまで凝っておらず、淡々としているし、小説らしいレトリックもほとんど使われていない。けれど、切ない読後感が良かった。「初頭効果と終末効果」と言うらしいが、本作は「書き始めと書き終わり」がうまいなと感じる。

『クリスタルガイザーの蓋もあけにくい。』という一文から始まって『手は離さなかった。』の一文で書き終わる。話の繋げ方がなかなか読ませる。変なオチや結末をつけずに、その後を想像させる余地を残して物語を終えているのも余韻があって良かった。

レトリック部門

 ひとつ前の「ビンの蓋~」とは対照的に、レトリックを積極的に取り入れている作品。内容としては「飼っていたヒヨコが野良猫に襲われてしまった」というだけで、主人公の対立・葛藤・変化も、物語性もない。純粋な文章表現のみで勝負している印象を受ける。

 エントリーを読んでみると分かる通り、本作は特徴的な比喩表現を用いている。

  • 脂ぎっているような白熱灯
  • うじゃうじゃとまるで「蜘蛛の糸」を待つカンダタのような感じ
  • 落語の道楽若旦那もうらやむような生活

(引用:『ひよこ』)

 よく私たちが「文才、文才!」と褒めそやしているのは、じつは「天賦の才」の類ではなく、「勉学によって身につけられる修辞技法」なのだ。なんでもかんでも才能のひとことで片付けてしまうのは傲慢なもので、名文を書く人はやはり人一倍の努力をしている。本作からは「文章を面白くしよう」とする熱意が伝わってきて、そこが胸を打った。

2015年ベストオブ増田

 2015年を総括すると、『前半期』の方で大賞に選んだ「うちの金魚の半生」が増田文学のなかで最高だった。これはもう本当に、素晴らしい。

終わりに

「なんであの傑作増田が選ばれてないんだ?」みたいなのがあれば(多分投稿を見落としているので)ぜひ教えていただければ嬉しく思う。

 じつは少し前に『はてなグループ』というサービスを使って増田文学部なるものを作ってみた。トップページから匿名ダイアリーの新着ホッテントリ10件と『増田文学』タグのついたエントリーの最新10件を見ることができる。増田文学部では、はてなユーザーであれば日記や掲示板を自由につくれて、自由に増田語りや増田レコメンドができる。(果たして需要があるのだろうか……。)もしよろしければお気軽に。今回、ブログの方で紹介し切れなかったエントリーも、この増田文学部のほうにまとめておきたい。

 ではでは、次回は2016年前半期でまたお会いしましょう。

(おわり)

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