雨の日は、中二病になろう。
雨の日に失恋した僕は、雨が好きになれない。
強いて好きな部分を挙げるならば、傘をひらける瞬間が好きだ。
こう、雨雲が立ち込めてきて今にも降り出しそうなときに、
(ふっ……。あれを、使うか)と、おもむろに鞄から折りたたみ傘を取り出す。
そして天高く、傘を掲げ、心のなかで叫ぶんだ。
展開せよ!! 《レーゲンシルム》防御形態!!!*1
もう、かっこいい。傘のひらく瞬間がかっこいい。
《――刹那――》という地の文を入れたくなるほどに惚れ惚れする。
中二病だから恋がしたい。
「東京喰種」がアニメ化されたときには僕も大いにハマっていて、自分の傘のことを《クインケ》と呼んでいた。
(ふふふ、私のクインケは少々変わり種でね……、真の姿をご覧に入れましょう)と、心のなかで呟きながら折りたたみ傘をひらけていた。
雨は嫌いだが、傘を差す瞬間だけは少年のように目がキラキラしている。
ちなみに駅の自動改札でIC定期券をかざして《変身!!》と心で唱えるときも僕は輝いている。
今では「雨傘」と呼ぶケースが多いけれども、「洋傘」と書いて「こうもり」と読ませるのもなかなか乙なものである。
彼女は路傍の砂利積に撒布た石灰の上に黒い洋傘を投げ出して、両袂を顔に当てながら泣きジャクリ始めた。
(引用:夢野久作『少女地獄』)
夢野久作の文体は、並々ならぬ中二魂を感じる。影響された物書きも多いと思う。
「撒布た」で「まいた」と読ませ、「洋傘」で「こうもり」、そして「泣きじゃくり」ではなく「泣きジャクリ」なのだ。かっこよすぎて痺れる。
夢野久作は代表作の『ドグラ・マグラ』『少女地獄』ともにエキサイティングな作品なので、面白い小説を探している人は騙されて読んでみて欲しい。
カッコイイといえば、もうひとつ捨て置けない中二アイテムがある。
雨合羽《レインコート》
エクセレント!!
シンプルな漢字、シンプルな響き、それでいて異能力バトル感あふれる非日常なネーミングセンス!
なんて、しょうもないことを考えながら帰路を歩いていたとき、めっちゃラブラブな相合傘のカップルとすれ違った。
(悪いな……この傘は、一人用なんだ)
頭のなかのスネオが言った。
雨の日は、中二病になろう。
(おわり)
今週のお題「雨の日が楽しくなる方法」
*1:Regenschirm:ドイツ語で雨傘