カクヨムのGoogle Analyticsはウェブ小説の運営戦略に革命をもたらす
先日、Web小説界にひとつの革命が起きました。
カドカワの小説投稿サイト「カクヨム」に、作者がGoogle Analyticsを設定できるようになったのです。
繰り返しますが、これは革命です。何を大げさなと思われるかもしれませんが、Google Analyticsを入れられるようになったことで、Web小説の戦略性が大幅に上がりました。
Google Analyticsで「見えなかった読者」が可視化される
書き手はよく、読者の姿が見えないんだと嘆きます。
カクヨムには「レビュー」「スター」「フォロワー」「応援コメント」といった、読者の反応が得られる機能が備わっています。しかし悲しいことに、これらが集まるのは人気作品だけです。
(ブログやサイト運営も同じことですが)目に見える反応を残してくれるのはごく一部の読者のみ。読者の大多数は、目に見えぬ存在です。そして評価がもらえない書き手は、見えない読者がいることを信じられず、時として自信を失い、時として連載を止めてしまいます。
しかし、Google Analyticsを入れたら、見えるんです。「誰も感想をくれない。読者なんていないんだ」と思っているその作品に、たしかな読者がいることを。それはもう、はっきりと教えてくれます。
ほんの一例に過ぎませんが、Google Analyticsでは下記のようなことが分かります。
- 作品のリピーターがどのくらいの割合でいるか
- リピーターはどのくらいの間隔で再訪問していて、どのくらいの回数リピートしているか
- 各エピソードの平均滞在時間は何分何秒なのか
- エピソードを3分以上の時間をかけて読んでくれた読者は何人いるか
- 文字数に対して滞在時間の少ない(読み飛ばし率が高い)エピソードはどれか
- 離脱率の高いエピソードはどれか
- ツイッターやブログでのWeb小説宣伝は、読者数の増加に貢献するのか
- SNS経由で小説を訪れたユーザーは、本当に中身まで読んでくれているのか
- パソコンで読む人と、スマホで読む人との割合はどちらが多いか
これらはある意味で、レビューやスターよりも、信頼し得る指標となります。(お世辞のつきようがありませんからね)
じつは私は、カクヨムにGoogle Analyticsを設定できるようにしてほしいと、以前から願っていました。
小説家になろうとカクヨムに望むことは、Google Analyticsを設置できるようにすることですね。これができると、劇的にWeb小説の戦略性が上がるのですよ。例えば「離脱率の高いエピソードを修正して、直帰率を下げる」とか「ページ滞在時間から読み飛ばされ率を計測しリライト」とか
— 五条ダン (@5jDan) 2017年1月14日
このツイートの一ヶ月後、早くもそれが実現されました。とても嬉しく思います。
とにかく、Google Analyticsを設定できるようになった以上、書き手はもう「読者から感想がもらえないんです……」と嘆く必要はありません。
なぜならば、感想よりもずっと正直で(あるいは残酷な)データに基づく指標を手に入れられるのですから。
その作品が面白いかどうかは、Google Analyticsでユーザーの「読了率」を確かめればすぐに分かることです。
ようやく、Web小説の世界が、Webサイト運営と同じ土俵にまで上がってきた。書き手は、見えない読者を意識せざるを得なくなる。従来のレビュー至上主義に対する、パラダイムシフトと言えるでしょう。
長編連載小説の運営戦略は「完結後」が重要となる
おそらくこうお思いかもしれません。
さっきから革命革命と言っているが、何が革命なのか。見えない読者の存在が明らかになろうと、それがどうした。「面白い小説は面白い。面白くない小説は面白くない」というごく当たり前の事実が、データで補強されるだけではないのか。
べつに、アクセス解析で小説の書き方が変わるわけでもあるまいし。
変わります!!
小説の書き方を変えてしまう可能性があるからこそ、さっきから大げさなくらいスゴイスゴイと連呼しているのです。
例えば、Webで長編連載小説を書くとしましょう。どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
プロットとキャラ設定と世界観設定を用意して(すなわち設計書を作って)、ひとつずつエピソードを積み上げていく。
レンガでお城を作るのと似ています。お城が完成して以降は、不用意にレンガを抜き取って組み替え、形を変えることはできません。それによって読者にどのような影響を与えるかが、予測できないからです。
しかし、Google Analytics導入後であれば、小説の執筆はより有機的なものへと変わります。読者の反応を元に、コンテンツを修正していく戦略が成り立ちます。
Google Analyticsを使えば、ユーザーの読了率を最も下げているエピソードを探し当てることができます。つまり読者が「この作品を読むのをやめよう」と判断する躓きエピソードのことですね。
読了率を大幅に下げるエピソードを発見できたら、そのエピソードの問題点を考えます。(描写が悪い、情報の出し方がマズい、説明が分かりづらい、キャラの目的が見えない……etc)
それをリライトしてより良くすれば、作品全体の読了率が上がります。自分の長編小説のどのエピソードがマズいのか、各エピソードの読了率を指標に発見できるわけです。
すなわちこれは、長編連載小説「完結後」であっても、作品の改善・リライト作業がやりやすくなることを意味します。
Webサイトやブログを運営されている方であればご存じの通り、サイト公開後あるいは記事公開後にユーザーの動向を見ながら「どのようにコンテンツを修正していくか」が運営戦略上、極めて重要になります。
Web小説も、おそらくそのようになっていくでしょう。長編小説を書き上げたらゴールではなくなります。むしろ長編小説を完結させてからが勝負になります。
Analyticsを頼りに、より良い作品へと改稿する。作品は何度も生まれ変わり、より良く進化してゆく。最初に「小説の執筆はより有機的なものへと変わる」と書いたのは、このためです。
こうした改稿のやり方は、Web小説でなければ実現不可能です(新人賞投稿原稿にはアクセス解析がつけられませんから)。新人賞に投稿するのではなく、カクヨムに投稿する。その《優位性》を大いに利用しましょう。
しつこく繰り返しますが、Google Analyticsを実装することで、Web小説はいよいよ真価を発揮します。
「何を馬鹿なことを言っているんだ。小説は最初のネタが命。ネタの悪い作品をいくら改稿しようが、作品はよくなるものか。時間の無駄だ。そんなことをしている暇があったら、新しい作品に取りかかった方が100倍マシだ」
はい。そのような反論があろうことは予測しています。
というより、私の親友(作家志望ライバル)であれば、上記の台詞に罵詈雑言を加えて殴りかかってくるでしょう。その後数時間に及ぶ創作論議(という名の不毛な論争)に発展する光景が目に浮かびます。
もちろん、このような反論を否定はしません。創作は自由です。そして創作理論は、人それぞれです。すでに自分の信念を持っているのなら、貫くべきでしょう。
しかし、文筆業をしている者として、これだけは言わせてもらいます。
面白い小説とは、読了率の高い物語のことです。すなわち、10万文字超の文章を読者に最後まで読ませるのに成功したなら、(その感想がどのようなものであれ)面白いはずなのです。
長編小説の役割はたったひとつ。10万文字の文章を最後まで、読者に読ませる。たったそれだけで大成功です。しかし、これは途方もなく難しいことで、とてつもなく優れた筆力を必要とします。
ですがGoogle Analyticsは、作品の読了率を上げるのに役立ちます。作品をより面白く、より良く改稿するためのツールとして、これほどに心強いものはありません。
以上、柄にもなく熱く語ってしまいました。
Web小説書きの皆さん、我々にとって最大の好機が訪れようとしています。このビッグウェーブに乗りましょう! そして新しい小説の書き方を、共に探していきましょう。
(了)
追記(2017年2月13日)頂いたご意見に対する回答
当記事公開後、嬉しいことにたくさんのコメントを頂きました。そのなかで当記事の核心を突いたご意見がいくつかあったので、補足も兼ねて回答をいたします。
大前提として、私の目的は「より良く小説を書くためにはどのような方法が使えるだろうか」を考えることです。創作理論を語るうえで、議論に打ち勝つことは重要ではありません(書き手の数だけ創作の信念があり、正解は存在しないため)。
反論は真摯に受け止め、より良く書くために役立てていきましょう。
1.PV数が集まらないと「離脱率」等の指標が役に立たない問題
気持ちはわかるけど、有意義な分析ができるほど読者を集めるには、まずは人気作品になる必要がある…
これはかなり重要なご指摘であり、この部分についての説明が抜けていたのは私の手落ちです。
記事中では「読了率」や「ユーザーのページ滞在時間」といった指標を用いることで、作品の改稿に活かせるのではないかと提案しました。
しかしこれらの指標は、アクセス数が一定量以上ある作品でなければ正確な値が得られません。もともとのPV数が少ない状態では、(データの信頼性を欠くため)指標として役立たないのです。
ゆえに、記事中で述べた《離脱率に基づく改稿戦略》はPV数がある程度集まる作品でしか使えないことになります。
「それなら、人気作品が書ける作家じゃないとGoogle Analyticsって役に立たないの?」
とがっかりされるかもしれません。大丈夫です。使いづらい指標があるのはたしかですが、役には立ちます。
例えばアクセス数が少ない作品であっても、Google Analyticsの下記のようなレポートは役立てることができます。
- リアルタイム解析:今エピソードを読んでいるひとりの読者がどのように行動するか
- 集客起点:読者はどのようにしてその作品を訪れたか(SNSでの宣伝効果測定)
- 行動フロー:訪れたユーザーがどのようにページを移動したか
また、ウェブ小説はPV数で一喜一憂しがちですが、Googleアナリティクスを使えば「5分以上の時間をかけてエピソードを読んでくれた人は何人いるか」みたいな指標を自分で作れて、それに対して目標設定もできます。
PV集め以外にも、楽しみ方・やり方はいろいろあります。自分に合った解析の仕方を見つけていくと良いでしょう。
2.読者の顔色をうかがうことの弊害
「書きたいものを書く」ではなく「売れるものを書く」になって悪い意味で平らになりそうな気がします。
このコメントは共感するところではあります。
そして私は「売れるものを書く(Web小説におけるPV・レビュー至上主義)」から脱却するために、Google Analyticsが役立つだろうと考えています。
これまで、自分の連載しているWeb小説が面白いかどうか、成功しているかどうかを判断する指標は、次の2つしかありませんでした。
- アクセス数(PV数)
- ユーザーからのレビュー評価
売れるものを書くのではなく、書きたいものを書く。その思いを貫くうえで「自分の作品を読んでくれる読者はたしかに存在するんだ」という実感は大きなモチベーションとなります。
しかし、マイナージャンルの作品だと、PV数の伸びも悪く、感想もなかなかつかない。もしかしたら誰も自分の作品を読んでくれていないんじゃないかと、落ち込んでしまう。
そんなとき、Google Analyticsがあれば「長時間かけて自作を最後まで熟読してくれたひとりの読者」の存在を見つけることができるのです。
Google Analyticsは「人気作を書きたい人」はもちろん、「書きたいものを書く人」の手助けとなります。
また、この記事では改稿のために「読了率」という指標を使うことを提案しました。
《PV数が高い=売れる作品》であるのに対して、《読了率が高い=読者を引き込む作品》です。
すなわち読了率を高めるとは「文章のリーダビリティを上げる」&「情報を出す順序を変える」ことであり、決して読者に媚びるために改稿をするのではありません。
すべては、より良い作品を作るために。
3.Google Analyticsが設置できるカクヨム以外の投稿サイト
星空文庫は10年前からアナリティクス設定できるぜ
troyanのコメント/はてなブックマーク
情報ありがとうございます。これは初耳でした。
実際に星空文庫に会員登録して見てみたのですが、Google Analyticsたしかに設置できます。
もっと評価されるべき小説投稿サイトだと思います。
- 星空文庫(公式サイト)
以上、コメント本当にありがとうございました。
【関連記事】第2回カクヨムWeb小説コンテストに投稿した話と「読了率」について
PV数を上げるよりもまずは「読了率」の向上を目指そうという話を過去にも書きました。