ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

『人生の半分』第14回短編小説の集い投稿作

「あなた、お食事が冷めます」

 妻の洋子がたしなめる。洋子はすでに夕食の半分以上を食べ終えていた。

 文雄は、箸を持った手を胸のあたりで止めたまま、テレビ画面に見入っている。

 車椅子バスケの特集だった。車椅子に乗った青年たちがコートを滑り、くるくると踊るようにしてボールのパスを繋げる。受け取ったひとりがふっと手を掲げると、ボールはもうゴールリングに入っていた。

 洋子の視線に気がついて、文雄は慌てて味噌汁の入ったお椀に手をかける。

「すまん」

 味噌汁を喉へと流しこむ。

 若ければ希望があるのか、いやいや若いのに希望を持っているからすごいのだ。俺もまだ五十七なのにと文雄は思う。自分は百二十歳まで生きると決めている。だからまだ人生の半分にも達していないのだ。

 豆腐のつるつるとした舌触り。噛みしめると、オクラのタネがぷちりと弾けた。赤味噌特有の芳醇な香りが広がる。味噌は香りが難しい。熱しすぎるとすぐ香りが飛んでしまう。味噌の風味が一番引き立つ《時間と温度》が文雄の秘伝レシピには存在したが、いつの間にか妻の手料理に追い越されていたようだ。

 

「少し早い定年退職ですけどね、趣味を持たなきゃダメですよ。すぐにボケるんですから」

 スポーツなんてどうです、昔やってたんでしょと洋子は言う。それからボケたら嫌ですよ、を三遍くらい繰り返した。耳にタコができそうだった。

 文雄はキュウリの漬物を箸でつまんだ。咀嚼するたびカリッカリッという小気味よいリズムが刻まれる。やはり夏といえばキュウリだ。夏といえば子供のときは甲子園行くのが夢だったなあと文雄は思い出す。あの頃は自分がラーメン屋をやるとは夢にも思っていなかった。

 文雄はもういちどテレビの画面の方を向いた。車椅子の若者がインタビューに生き生きとした表情で自分の夢を語っていた。

「そうだな……」

 こんがりとした焼色の、アジの塩焼きに箸をつけた。ほくほくとしたあたたかさを柔らかく舌が包む。アジは夏が旬だ。程よく脂が乗って身も引き締まっている。ラーメン界で魚介ダシが大流行したとき、文雄も研究のために様々な魚を試してみた。アジの干物から取れた出汁は優秀だった。故郷を思い出すようなどこか懐かしい旨味、繊細な風味を殺さない麺を見つけるのに苦労した。

 冷たい麦茶を口に入れると、喉にさわやかな感覚が広がった。甲寿屋秘伝の薫り味噌ラーメン、そして特選アジの魚介ラーメン、この二つは文雄の店で大人気のメニューとなった。息子が友達に『俺の親父は行列のできるラーメン屋なんだぜ』と自慢するのを聞いて、誇りに思った。その味の記憶も、遠い昔に消えたように思えた。

 

「明日、廃業届を出す」

 あらかた店を畳む準備は終わっていたが、廃業届をまだ税務署に出していなかった。これを出したら自分の人生のすべてが終わってしまうような気がした。

「そうですか」と洋子はそれだけ答えた。

 

 翌日、税務署で手続きを終えた文雄は、ふらふらと足が地面につかないような気持ちで帰路についた。実感が湧かない。手続きといっても大したことがない。廃業届と青色申告取りやめ届け、その紙っぺら二枚を税務署の窓口に手渡すと、確認用の日付印を押されてそれで終わり。「お疲れ様でした」「今までご苦労でしたね」のねぎらいの一言もない。(もっともそう声をかけられたとしても困ってしまうが)淡々とした事務仕事の流れそのもので、文雄の用事は一分もかからずに達せられてしまった。

 脱力する。自分が今まで背負ってきたものが、こんなものだったのかと、そして自分がこの先どうやって生きてゆけばいいのかわからなかった。

 帰り道、自分の店に立ち寄った。もう看板は無い。《らーめん甲寿屋》百年千年万年と語り継がれるラーメンを創ろうと名付けたが、結局三十年ぽっちで閉めることになった。

 降りたシャッターに貼られた閉店廃業の張り紙。文雄はしばらくその場で佇んだ。

 

「親方ぁ!!」

 懐かしい声に振り向くと、熊谷だった。以前にも増してずんぐりとした体で走ってきて、汗を白シャツで拭きながらぜえぜえ言っていた。五年前まで、熊谷を弟子にとっていた。その後熊谷は独立して、自分の店を持ったと聞いている。

「熊、店はどうした店は」

「へえ、お陰さまでぼちぼち……」

「そうじゃない。こんな昼間から空けてきたのかと訊いてるんだ」

「だって親方が……」

「馬鹿もん。くだらない理由で顔を見せる暇があったら、すぐに店に戻れ」

 親方、と呟いて、熊谷は目を真っ赤に充血させている。

「すんません、俺、親方のこと何も知らなくて」

 熊谷はもう泣き崩れていて、その場でわんわん叫びだしそうだった。洋子が余計なことを言ったのか。決して誰にも言うなと口止めしておいたのに。

「泣くな。みっともない。誰にでも、引き潮時ってもんがある」

 文雄は自分が泣き出したいくらいだった。

 ふと、ある考えが頭をよぎった。

 まだ金庫にしまってある秘伝のレシピ。あれを熊谷に託せば、自分の味はこれからも受け継がれるのでは――。いや、駄目だ。それはラーメン作りに命を懸ける男への冒涜となる。

「熊は熊の道をゆけ。俺は俺の道をゆく。それだけの話だ」

 文雄は熊谷の大きな肩をがしりと掴み、自分の道を進めと励ました。それはまるで文雄自身に言い聞かせる言葉のように。

 熊谷と別れ、家の玄関をくぐると「おじいちゃーん」と孫娘の風香が飛びついてきた。孫が遊びに来ているとは知らず、文雄は驚いた。

 よしよし大きくなったなと頭をなでていると、洋子が出てきた。

「隆史が来てるのか?」

「ええあの子ったら、突然帰ってくるんですから。連絡くらいくれればいいのに」

 隆史は今年で二十四になる息子だった。東京でコンピューターの仕事に就いているのだとか。息子が学生時代に結婚をしたので、文雄にはもう三歳になる孫娘ができてしまった。

「親父、帰ったんだ」

 隆史も廊下に出てくる。パパー!と声を上げて、風香は隆史の方に行ってしまった。

「会社はどうしたんだ、クビか?」

「縁起でもないこと言わないでくれよ。有給休暇だよ。お盆期間が忙しくて休めないから、代わりに時期をずらして取らされたわけ」

「よくわからんが、大丈夫だろうな。ブラックなんとかとか言うのが増えてるらしいぞ」

 隆史は曖昧に微笑んだ。風香がつまんないー!と言うので、隆史は風香を抱き上げて、居間の方へと姿を消した。

 

 文雄はお茶の間で、畳の上にあぐらをかいている。洋子が出してくれたほうじ茶を啜り、せんべいをかじった。この頃は食べるときに、音に集中してしまう。ガリッガリッという低い音が、頭に響く。

「隆史は大丈夫なのか」

「さあ。でも楽しいみたいですよ。お給料も上がったとかで」

 洋子が答える。彼女は最近ハマったらしいクロスワードパズルを解いていた。赤い老眼鏡で熱心にパズル雑誌を覗き込んでいる。

「うーん……」

 人生は人それぞれか。余計な干渉をするのも良くないと文雄は結論づけた。熊谷の姿がふと脳裏に浮かんだ。

「おじいちゃーん、あげるー!」

 風香がやってきて、文雄にアイスキャンデーの半分を差し出した。(そのアイスは真ん中で縦半分に割って二人で食べられるタイプのものだった)洋子が「おじいちゃんはアイス食べないのよ」と言ったが、文雄はそれを受け取った。風香の手にはもう半分のアイスが握られていて、おそろいね!と喜んでいた。

 そのアイスは淡い緑色をしていた。初めて見るアイスだった。文雄は一口齧って、しゃくしゃくと噛む。夏の日に涼しい、さわやかで透明な喉越し。

「ほぅ、ふうちゃんは抹茶が好きなのか」

 風香は意味が理解できなかったらしく、しばらく首を傾げて「きらーい」と言った。

 文雄が笑って「じゃあ、ふうちゃんのアイスも貰っちゃおうかな」と言うと、やー!と悲鳴を上げて逃げていった。

「ははは、かわいい年頃だな」

「あなた……」

 洋子は何かを言いたそうにしていた。

 

 隆史が呼ぶので、二階の部屋に行ってみると、机の上に一台の小型コンピューターが置かれていた。

「プレゼントだよ。親父、こないだ電話したときパソコンやりたいって言ってたからさ」

 文雄は、紙のように薄い画面を感心して眺める。ためしにボタンをひとつ押すと、色鮮やかな四角い箱が画面にぽっと灯った。とても自分が使いこなせるようになれるとは思えないが、文雄は純粋に、目の前に映る綺麗な風景に心惹かれた。

「休み中に使い方教えるからさ。元気だしてよ。母さんも毎晩心配で眠れないって、だから俺が今日駆けつけてきたんだよ」

「まさか……」

 文雄はここ最近は、むしろ明るく振舞っていたつもりだった。全然隠し切れていなかったということか。

 それから日が暮れるまで、文雄は隆史からパソコンの使い方を教わった。ワープロで文章が自由に打てるようになると、達成感があった。これで自分の半生を、自伝を書いてみたいなという気持ちが膨らんだ。いや恥ずかしいかな。まあいい、新しいことを始めるというのは、悪い気分ではなかった。

「これが、隆史のやってる仕事なんだな」

 文雄が感慨深げに言うと、隆史は少しだけ間を置いて「まあね」と答えた。

 

 夜、夕食を終えて、縁側で涼んでいると、洋子がスイカを持ってきた。風香が「メロンがいい」と駄々をこねる。顔をふくらませる孫を眺めて、文雄は微笑む。欲があるのはいい。欲は生きる力だ。

 それから縁側から足を投げ出して、星を眺めた。自分はこれから何がやりたいのだろう、と思った。

 風香が隣に座ったので、文雄は聞いてみた。

「ふうちゃんは大きくなったら何になりたいのかな」

「ふうはねー、パティシエになるの。ケーキ作ってー、おじいちゃんに食べさせてあげる」

 文雄は胸が詰まった。涙を見せないようなるべく空を見上げて、風香を抱き寄せた。頭をよしよしと撫でた。風香は顔をうずめて喜んでいる。

「風香はいい子ですよ」

 洋子が言った。

「ああ……、長生きしないとな」

 文雄は強く誓った。風香がお嫁に入るまでは生きていようと。まだまだ、人生は半分なのだ。楽しみなことがいくらでもあるではないか。

 味がわからない。自分が味覚障害になったと知ったとき、何もかもに絶望し、すべてを失ったと感じた。けれど、自分にはまだ大切な生きる理由があるではないか。洋子、隆史、風香、それに熊谷もいる。そう簡単に死ねるものか。

「あたりまえです」

 七月の空に、星が輝いていた。

 

(了)

 

 この記事は、

【第14回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 の参加作品です。(約4,200文字、テーマは「食」)11月3日深夜が〆切で、ものすごくぎりぎりな時間の投稿となってしまってすみません。とても悩んだ作品ですが、書くことができて良かったです。

 他の参加者の方の作品は

 こちらから読むことができます。

 

(終わり)

(謝辞)『タロットプロット』頂いたご意見へのお礼と、今後の改善案について

 先日、弊サイト『タロットプロット』をプレゼン発表する機会があり、多くの方々から貴重なご意見をいただきました。今後サイトをどのように改善すれば良いのか、またWebサイト設計で何に気をつけるべきなのか、大変勉強になりました。

 本当にありがとうございました。頂いたアドバイスは必ず、今後の改善に繋げます。

 以下では、皆さまから頂いたご意見をご紹介し、今後タロットプロットをどのように改善していくかについてお話できればと思います。

1.デザイン面

 デザイン面では非常に多くのツッコミを頂きました。要約すると「デザインはとにかくまずいので、何とかするべき」私もこの件は重く受け止めていまして、早急にウェブデザインの再設計に取り掛かる予定です。

デザインに関するご指摘

Q.トップページのメインビジュアルが、怪しいサイトのようになっていて、使いづらい。初めて訪れる人は有料サービスだと思ってしまうのではないか?

Q.色を使いすぎている。色が多すぎて見づらくなっている。配色に統一性を持たせるべきである。

Q.文字大小のメリハリがなく、読みづらい箇所がある。文字のジャンプ率を意識すべき。

デザインの反省点

 トップページのメインビジュアル、および配色設計については、私も失敗したなと感じております。

 このようにして眺めると……、たしかに。デザイン設計時点で気がつくべきでした。

 すごく極端な例ですが、初心者がやってしまいがちな悪例として

 みたいなロゴを作ってしまう。私も「ははは、さすがにここまでダサいのは作らんやろ」と笑っていたものの、いやはや……反省します。

今後の改善案

 デザインをゼロから再構築し、中身のコンテンツも含めて大規模アップデートをする予定です。やはり「小説のプロットを占う」サービスなので、白色ベースですっきりとまとまるようなデザインに改善したいです。

 参考サイトとしては、小説家になろうが挙げられます。

 シンプルでとても見やすく、安心感もある。また、無彩色ベースであれば、このブログ「ときまき!」に似せても面白いかなと考えています。

(我ながら気に入っているデザイン)

2.技術面

 技術面でもさまざまなご指摘ご要望をいただきました。現状は、JavaScriptでカードがランダムに引けるだけなのですが、今後さらに機能は拡充させていきたいです。

機能、システム等に関するご指摘

Q.占い結果の保存について。現状はユーザーにテキストエリアから「ctrl+C」でコピーさせる方式を採っているが、これは不便だ。せめてボタンクリックひとつで、クリップボードにコピーできるようにすべき。とくに、スマホ版。コピー用の「ボタン」は用意したほうが望ましい。

Q.PHPで占い結果ページそのものを保存させ、診断結果をツイッターで拡散できるような仕組み(多くの占いサイトがこれを実現している)が欲しい。

Q.レスポンシブではないため、今後、解説記事コンテンツを拡充するのであればメンテナンス性が悪いように感じる。

Q.カードを引く枚数が多いとき、いちいちマウスでクリックするのが面倒。例えば一括でカードを展開して、ユーザーがすぐに占い結果を見れるような配慮が欲しい。

機能、システムでの反省点

 ユーザビリティ上これはさすがに宜しくないとご指摘があったのは、占い結果の保存方法です。

 現状、結果保存用のコピーフィールドは上のようになっており、ユーザーは「ctrl+C」か右クリックで保存するしか選択肢がありません。(スマホ版も同様)

 これは確かに不便であり、早急に直すべき部分です。多くのサイトでは、ボタンをワンクリックするだけでコピーができる機能を取り入れています。とくにスマホでは右クリックやキーボードショートカットが使いづらいため「コピー用ボタン」が必須です。クリップボード制御は思いのほか敷居が高かったため導入を見送っていたのですが、この機会に勉強しようと思います。

 その他の点についても、現在見直しを行っています。占い結果専用のページを作って、ツイッターで呟けるシステムはやはり欲しいところで「ツイッター診断メーカー」をはじめ、このようなシステムはアクセス向上のためには欠かせないものとなっています。

3.コンテンツ面

 最も重要なのは中身のコンテンツであり、コンテンツを第一に考えて、それを生かせるデザインや技術を作っていく必要があります。

コンテンツに関するご指摘

Q.現状では「ネタ出しツール」くらいにはなるかもしれないが「プロット作成支援」を謳うには、まだ深みが足りない。

Q.恋愛小説、SF、ミステリーなど、書くジャンルに合わせた占いコンテンツを作って欲しい。

Q.占い結果で、例えば人物設定を行うときには「どのような人物か」というキーワードだけが欲しい。現状は「行動/状態/性質/人物像」などを示すキーワードが全部一緒くたに表示されてしまっており、解釈が難しい。

Q.箇条書きでキーワードを羅列するのではなく、文章形式で占い結果が読みたい

Q.現状は「ポジティブな意味のカード」と「ネガティブな意味のカード」とが半々に存在し、ランダムに出てくる。しかし例えば《主人公の願望》だとか《物語の結末》の項目にネガティブな意味のカードが出ると、困ってしまう。ユーザーが事前に、ハッピーエンドにするかバッドエンドにするかを決めて、それに応じて出すカードを変えられないだろうか。

Q.インプットではなく、アウトプットの支援システムが欲しい。例えば「キャラ設定シート」や「物語設計シート」など、問いに答えて項目を埋めるだけで簡単にプロットが生成できるような仕組みがあると良い。

Q.カテゴリ分けが、現状は「テーマ」「ストーリー」「キャラクター」「ペルソナ」「ワールド」とあるが、わかりづらい。

(改善予定→「ネタ出し」「物語設計」「キャラ設定」「世界観設定」と、より一般的に用いられる言葉でカテゴリを再編成する)

Q.ユーザーが自作のプロットを投稿して、評価し合えるような投稿サービスを作って欲しい。

 などなど、たくさんの声をいただきました。頑張ります!

 個人運営のサイトのメリットは、時間をかけていくらでも修正&バージョンアップを行えることです。上記に挙げた機能すべてを実装することは難しいですが、可能な限り実現させ、より使いやすいサイトに発展させていこうと思います。

 タロットプロットに関するご意見ご感想を募集しています。上のメールフォームから送ってくださると嬉しいです。匿名でもOKです。

最後に

 タロットプロットは完全な趣味サイトで、(そのうち入れるかもしれませんが)現時点ではAdsense広告等は入れずマネタイズは考えておりません。

 では、私がタロットプロットを作る目的、メリット、制作動機は何なのか?という質問に正直に答えるとするならば

「タロットプロットで作ったプロットで新人賞を突破したい」

 もう本当に、この一言に尽きます。俺が新人賞を受賞する、ただそのためだけにタロットプロットを作ったんだ!と言っても過言ではないです。

 ゆえに、私自身が一番熱心なタロットプロットユーザーであるという自負はあるのですが、贔屓目に見ても、現状のサイトは使いづらい。これではまだ、満足の行くプロットは作れない。何とかしなければ、もっと使いやすいサイトにしたい、と思います。

 ありがとうございました!

(終わり)

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誰かが私を変えてくれるのを待っている

 今月はあと六万文字書かなければ〆切に間に合わない。急がなければと思っているのに、筆が進まない。進捗が硬直している。パソコンの画面を見つめる私は、まるでメデューサの眼光に当てられた石像のように動けない。いやいや、今の比喩はよろしくない。レトリックには、必然性がなくては。格好をつけるために意味もなくいい加減な比喩を使うと、逆効果だ。料理の調味料は、少ない分には薄味でまだ食べられるが、多過ぎると全体を駄目にしてとても食えなくなる。過ぎたるは及ばざるが如し、なのだ。あ、また余計な比喩で説明してしまった。ぽかぽか、いけない奴め。

 などと悪戦苦闘して、本当に書けない。思考が止まってしまった。頭からは、ぽわわ~~~んという気の抜けた擬音語が蒸発している。ぼんやりしてきて、何もかもがどうでもよくなってしまう。

 原稿進まない。集中力がもたない。とりとめもなくネットサーフィンをして、気がつけば何時間も経っている。最近は増田(はてな匿名ダイアリーの俗称)ウォッチが日課だ。注目されそうな増田にブックマして気の利いた大喜利コメントを書いて星を集めたりすると、なんだか昔スーパーマリオで必死になってコインを全部取ってやろう頑張っていた子供時代を思い出す。いいよね、はてなスター。夜道でふと顔を上げて、星々が輝いているのを見ると「わあい、はてなスターだぁ」と思ってしまって、いよいよはてな中毒を発症している。

 増田は書くのも好きで、自慢だが(自慢なのかな)こないだ100はてブ以上獲得してホッテントリ入りを果たした。たいてい、ホッテントリ入りしたエントリーには手斧が飛んでくるものだが、私の記事は思いのほか好評だったようで「増田大先生渾身の一作!」「これぞ増田文学の真骨頂!!」「軽快なレトリックに清々しい読後感」「いやはや、良いものを読ませてもらいました」「狂気と混沌に満ちた素晴らしい才能」「恐ろしい恐ろしい」「プリントアウトして出版社に持って行くべき」「良い記事ですね! シェアさせていただきます!」みたいな心あたたまるブコメで溢れていて、私は感極まって今にも昇天してしまいそうだった。(ブコメ半分くらい妄想ですすみませんでした)しかし、ネットというのは案外簡単に承認欲求が満たされてしまうので、承認欲求を満たすことを目的に書いていると、すぐに書けなくなってしまうと感じた。「満たされてしまった」ら「書けなくなる」。

【問】ところで数行前に『心あたたまる』と書いたが、漢字表記するならば『心温まる』『心暖まる』どちらが正しいだろうか。

「温まる」は、モノの温度について述べるときに用いる。料理を温める、とか、冷えた手を温めるとか。あるいは人の感情にも使えるので、温かい視線、温かいもてなし、温情など。

「暖まる」は、気温や気候について述べる印象が強い。ストーブで部屋を暖める、春は暖かい、暖かい色合いの壁紙、暖かい炬燵、云々。

 では、心の場合はどちらなのか。温かい心なのか、暖かい心なのか。

 調べてみると、どちらでも良かったらしい。うん、散々悩んだ挙句、解答を見たらどっちでもいいよ的な慣用句はわりと多くて、がっくりくる。

 小学館日本国語大辞典と広辞苑では「心暖まる」、明鏡国語辞典では「心温まる」だ。念のため青空文庫で小説家たちがどちらを選んでいるかを調べてみたが、どちらともあった。ちなみに日本語大シソーラス類語検索辞典によると「温まる心」は「あたたまる」ではなくて「ぬくまる」と読ませる場合もあるそうだ。

 そんなこんなで、豆しばとトリビアの泉もびっくりな雑学をリサーチしていたら、時計の短針が深夜零時に近づいていて肝心の原稿はちっとも進んでいなかった。

 はてなブログの新着エントリーのページでF5キーを連打してみても、はてなブックマークのランキングを行ったり来たりしてみても、ただ時間が過ぎゆくだけで、自分はこんなことをしている場合じゃないのにと理性は悲鳴をあげている。けれどネットサーフィンがやめられない止まらない。ああ、私は「本気をだすタイミング」を見つけ損なったんだなと思った。

 それから、ツイッターのタイムラインをどこまでも遡ってみたり、ニコニコ静画で漫画を読み漁ったり、外国為替のチャートを眺めたり、回転椅子でくるくる回ったり、ボールペンの芯を出したり引っ込めたり、新聞紙で折り鶴を作ってみたり、いろんなことをした。新聞紙の折り紙は傑作だったので玄関に飾った。ほんとうに、この忙しいときに自分は何をやっているのだろう。けれど無意味な行為がやめられない。時刻は深夜二時を回っていて「仕方ない、明日から頑張るか」と布団に入ってから(ああなんで今日も頑張れなかったのだろう)と激しく後悔する。

 他に為すべきことがたくさんあるときに、ネットサーフィンでぐだぐだと過越してしまう。けれど、きっと私は何らかの「情報」を求めてWebサイト巡りをしているはずなのだ。その「情報」さえ見つければ、私は新しい私に変われるはずなのだ。やる気と本気に満ち満ちた、私に。だからネットサーフィンがやめられない。

「シンデレラ・コンプレックスだね。キミはネットのなかに、自分を変えてくれる魔法使いのおばあさんをさがしているんだ」
 だねだね、と育てている観葉植物のパキラが言った。設定上は僕っ子のショタだが、育ちすぎてしまって背丈が1メートル近くになった彼は、かわいくない。
「誰かが《私》を変えてくれるのを待っているんだね」
 そうなのだろうか。
 誰かが、私を変えてくれるのを待っている。人でなくても構わない。自分が変われるきっかけさえあれば、それで。今この瞬間に、玄関のチャイムを宗教勧誘の人が鳴らして「あなたも○○教に入って人生を変えてみませんか」と囁いたなら、きっと私の心は揺れるだろう。
 シンデレラに限らない。誰にでも変身願望はある。ウルトラマンだって、仮面ライダーだって、最初から強いわけではない。「変身」で強くなる。変身ッ!というスイッチによって変わることが重要なのだ。変身願望が満たされることに大きな意味がある。
 私も変身したい。どこかに変身ベルト落ちてないかな。
 たった三分間だけでいい。自分が自分の思い浮かべる理想の姿へと変わり、本気で全力でその僅かな瞬間を生きることができたのならば、きっとその日は満足して眠りにつけるはずなのだ。

 私は砂時計をひっくり返した。

 

(終わり)

「KADOKAWA×はてな」の新小説投稿サイト来たああああ!!!

 つ、ついに「はてな×KADOKAWA」の小説投稿サイトが来たあああああ!!!!

 うちはこのワクワクの衝動を抑えられへん。煮えたぎる血液、迸る心臓の鼓動が宇宙の果てまでダイナマイト!!!やで。はてな創作クラスタの新たなる幕開けや。これはもう書くしかあらへんな。賞金総額はなんと700万円!!しかも大賞作品は「書籍化決定!!」 うちが《はてな小説家》としてデビューを果たす日が来ることを思うと、胸が高鳴るな。ウェヒヒヒヒッヒヒヒヒヒ……!!!

 も、もう……はしゃぎ過ぎです。取らぬ狸の皮算用してる暇があったら原稿書いてくださいよ。KADOKAWAとはてなが組んで小説投稿サイトを作ることには私もびっくりしました。「小説家になろう」「エブリスタ」「魔法のiらんど」など、すでに大手の小説投稿サイトがあるなかで、どのような差別化戦略を行うのか、気になるところです。

 KADOKAWA×はてなの「第1回 Web小説コンテスト」では7つのカテゴリに分けて原稿の募集をかける予定のようですね。

  1. ファンタジー
  2. SF
  3. ホラー
  4. 現代ドラマ
  5. 現代アクション
  6. 恋愛・ラブコメ
  7. ミステリー

 なかでも「現代ドラマ」「現代アクション」の2カテゴリは面白いですね。他の新人賞ではあまり見かけない項目です。

 ファンタジーに属する『異世界転生/チートハーレム』『MMORPG』、ホラーに属する『デスゲーム』系作品は、ネット小説から書籍化し、そしてアニメ化・映画化で大ヒットした事例も見られます。この辺りのカテゴリは激戦区となるかもしれません。

 SFやミステリーも楽しみですよね。小説のカテゴリってじつのところすごく曖昧※ですし「このカテゴリはこうだ!」と縛られる必要は全く無いです。

(※例『恋愛×ミステリー』『ホラー×SF』)

 賞の投稿カテゴリを7つも用意したことは評価されるべきポイントだと思います。カテゴリが多ければ、投稿作品もうまい具合にバラけます。結果的に『多様な作品』が読者の目に届きやすくなる。書き手も自分の書きたい物語を追求することができる。

 ちょっと待って!!

 はてな小説の最高峰『増田文学』のカテゴリがないやん!!

【※参考 2015年前半期 増田文学大賞(はてな匿名ダイアリー) - ときまき! 】

 そ、それは『はてな匿名ダイアリー』の方でやってください。(匿名でなければ増田じゃありませんし)カテゴリ的には『現代ドラマ』がマッチするのかなぁと思います。しかし匿名ダイアリーには、時折とんでもなく優れた筆力を持つ書き手が現れるもので、驚かされます。普段増田で書いている書き手さんが、小説投稿サイトの方でも活躍できるのなら私としても嬉しい限りです。

 もしかしたら、これをきっかけに初めてネットで連載小説を始めるよー!という方もいらっしゃるかもしれません。最後に、私の経験則で大変恐縮ですが、ネットで連載小説を書くときのポイントを列挙して終わりたいと思います。

ネット連載小説を書くコツ

1.あらかじめ原稿は完結させておく

「話は連載しながらその都度考えていけばいいや」は途中でストーリーが破綻して詰む可能性が高いです。連載開始時点で、すでに原稿は完成させておきたい。完結まで行けなくても10話先分くらいのストックは貯めておきたいものです。ストックないと連載続けるのが大変です。

2.更新頻度は高い方がいい

 3日に1回、遅くとも1周間に1回くらいの更新ペースは保ちたい。毎日更新が理想です。

 書き溜めていなくて2週間に1回くらいの更新だと、読者だけでなく書き手であるはずの自分までもがストーリーを忘れてしまう。間を空けてしまうと、執筆再開するときに多くのエネルギーが必要となります。

3.章や各話にタイトルをつける

 つけた方が読者にとっては親切。これは迷子にならないためです。

 タイトルが無いと「あれっ、この作品57話まで読んだんだっけ、それとも58話かな。あのシーンもう一度読み直したいんだけど、えーっと23話だったかなぁ……」みたいに迷ってしまう。

 章タイトルのみで、各話は話数番号表記のパターンでも良いでしょう。私も、魔法のiらんど投稿の際はこの方式を採用していました。小説家になろうで連載していた頃は、各章各話にそれぞれタイトルをつけていました。この辺はお好みです。章タイトルなり各話タイトルなり、何らかの分かりやすい目印があると便利ということです。

4.作品タイトルとあらすじが命

 読者はタイトルとあらすじで読むか否かを判断します。あらすじが良い作品は中身も良い傾向にあるといえます。タイトルは煽らず釣らず、物語にマッチしたものにするのがベターです。

5.作者と作品は切り離される

 はてなブックマークのブコメ欄ではないですが、厳しいコメントや作品への辛辣な批判は、小説を連載していても寄せられます。このときに批判を『自分自身』への批判として受け止めると、メンタルが持たないです。

 あくまで読者が寄せるのは(作者とは切り離された)『作品』への感想であり、批判は作品改善のための参考材料として、淡々と冷静に受け止める……のが理想。

 小説投稿サイトとはてブが連携すれば、人気上位にあがってきた作品がブコメでフルボッコに叩かれるみたいな地獄絵図も予想でき、恐ろしい恐ろしい……。心(筆)を折られてしまわないように気をしっかり持ちましょう。

 

 以上、新小説投稿サイトに関する雑感と、ネット連載小説についての小ネタでした。

(おわり)

瞳に泳ぐ、魚はキミの……(第13回 短編小説の集い)

この記事は

の参加作品です。お題は「魚」

原稿は約4,600文字(字数制限ぎりぎりになってしまった……)

投稿は夏の納涼フェスティバル以来の二回目となります。

【第13回】短編小説の集い 投稿作品一覧 - 短編小説の集い「のべらっくす」

参加作品一覧はここから読むことができます。

 

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「ほら、もっと顔をよく見せてごらん」

 タカシが優しく、しかし真剣味を帯びた声でささやく。タカシとの身長差は二十センチ以上あり、ユキは顔を上げて背伸びをしなければならなかった。ユキは十六年生きてきて、まだキスをしたことがない。夢だったのに。この瞬間が、自分の”初めて”になることを自覚していた。

 海に沈んでゆく夕陽が、見つめ合う二人を茜色に染める。砂浜を踏みしめる。ユキの腕が、タカシの胸元へと伸びる。二人はしばらくの間、時が止まったかのように動かなかった。

 やがてタカシは荒く息を吐いて、身体をもたれかけるようにして大きな手でユキの肩を掴んだ。

「もっとよく顔を! 顔を!」

 タカシが目を見開いて、顔を覗き込む。まるで宝探しに命を懸けてきた冒険家が、土の奥深くに隠された遺跡を発見したかのような、あまりにも情熱的な視線だった。

 ユキは耐えられずまぶたを閉じた。

「違う! 目を開けるんだ、瞳が……見たい……」

 驚いてまぶたを開く。もう鼻と鼻とがくっつきそうな距離だった。食い入るように、彼は爛々とした目を近づける。タカシはうっとりした声で言った。

「きれいだよ……」

 その一言を最後に、タカシは息絶えた。崩れ落ちた砂浜に、血の海が広がる。

 

 ユキは”初めて”人間を殺し、自分が人とキスをする日は永遠に訪れないのだと悟った。

 陽が海に呑み込まれ夜が空を覆うまで、ずっとユキは泣き続けた。美しい声で。

 暗い波が、悲劇的な結末を待ち焦がれていたかのように、タカシの亡骸を海の底へとさらっていった。

 

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 その日、タカシはお見合いの帰りで、うんざりしていた。いつものことだが、親がはやく結婚をしろとうるさい。勝手に見合いの予定を入れて、相手の女性の顔写真とプロフィールが載ったカタログを押し付けてくる。彼女を彩るのは『学歴』『出身』『財閥』といった無機質的な記号に過ぎず、それは彼女だけでなくタカシ自身にも同じことが言えた。

 誰かを心から愛して、愛される生活を夢見ていた。同時に、親の影響がある限り、自分にふつうの恋愛が不可能であることも知っていた。

 

 疲れきった顔で家に帰った。タカシを待ち受けていたのはしかし、一糸まとわぬ姿の少女だった。知らない美少女が、自分の家のリビングになぜか横たわっている。疑問よりも先に、タカシは直感的な運命を感じた。

 タカシは高層マンションの一室に暮らしている。部屋にはオートロックの電子錠がかかっており、静脈による生体認証がなければ入ることができない。窓は二重窓であり、そもそも三十二階ではベランダからよじ登って侵入することは不可能だ。

 完全なる密室を乗り越え、全裸の少女が今ここに現れた。これを運命と呼べないのならば、呼ぶべきは名探偵であろう。タカシはじつのところ警察に連絡しようかどうか迷った。だが、状況的にどう考えても自分が不利になる。だからあきらめた、いや、少女を自分のものにしたかった。

 

 タカシは外套をソファに脱ぎ捨てて、仰向けに寝ている少女の身体を観察する。肌は白く、生まれてから陽にあたったことが一度もないように透き通っている。最近流行りの全身脱毛だろうか、産毛のひとつも生えていない。興奮を押し殺して肌に触れてみると、シルクの布を撫でたときのように指が滑った。

 どういうわけか、長い髪だけが濡れている。勝手にシャワーを浴びたのだろうか。まぶたは安らかに閉じており、夢を見ているようだ、流線型を描く控えめな胸が静かに上下に揺れていた。

 タカシは我慢がならなくなって、少女のすらりと伸びた脚に、手を触れた。

 刹那――。

 少女の体がびくんと飛び跳ねて、起き上がる。少女は苦痛に満ちた目を見開いて、三角座りをするように脚を抱えてうずくまる。口を開けて何か話そうとしているようだったが、声は一言も発せられなかった。

「キミは、誰なんだい……」

 タカシは行き場所を失った自分の右腕を気まずそうに背中に隠して、少女に訊いた。

 海のような青い瞳と、目が合った。

 少女の瞳のなかで、魚が泳いでいた。魚は視線の橋を渡ってタカシの深層意識へ潜り込み、魔法のように彼の眠っていた感情を呼び覚ました。魚に魅了される。

「美しい……瞳だ……」

 タカシは、恋に落ちた。

 

 二人はともに暮らし始めた。

 少女には名前がなく、声がなく、さらに足が不自由だった。

 タカシは彼女に名前を授けた。《ユキ》雪のように白く美しい――けれど、いつか溶けて消えていってしまいそうな儚い少女に。

  衣服と、宝石と、食べ物と、本と、それから車いすを。外に出なくても満たされて過ごせるよう、ありったけのものを。(しかしユキは本が読めなかった。文字を読むことも書くこともできないのだった)

 

「ユキ、綺麗だね。キミの瞳には、魚が泳いでいるんだよ」

 言われて、ユキは嬉しそうに微笑んで、頷くだけである。彼女が側にいるだけで満足だった。

 否、性的なことを期待していなかったといえば嘘になる。だがユキは下半身に触れられるとひどく痛がるのだった。激痛が走るようだ。タカシは彼女の苦しむ顔を見るくらいであれば自分が死んでしまう方がマシだと思った。性的な欲求を封じ込めることを誓った。 

 ユキは部屋から一歩も出なかった。部屋のなかのセカイだけで満たされていた。タカシも守るべき恋人のために、仕事にも精を出すようになった。というのも、親が愛想を尽かしかけている。結婚をなかなか決めようとしないタカシに。社長の座は、弟に譲り渡すつもりらしい、という噂も社内で流れている。内心焦っていた。

 

 同居から一月程経ったある休日、二人で一五〇インチのプラズマテレビで番組を見ていると、海外の水族館の特集が始まった。大水槽を魚の群れが泳いでいる。ふと隣を見ると、ユキが泣いていた。少女は何かを呟いた。タカシにはそれが「お母さん」と言ったように感じられた。どこから来たのかわからない少女は、故郷に帰りたがっていた。

 タカシがアクアテラリウムを買ってきて熱帯魚を泳がせてやると、気に入ったようだ。ユキは一日中、水槽に見入っていた。それから水槽を眺めるのが彼女の日課になった。

 

 ユキとの穏やかで幸せな日々が続き、また数ヶ月が経った。タカシの高齢の父親が、持病を悪化させ、急遽跡継ぎが選ばれることとなる。タカシは社長を継ぐ交換条件として、父親の薦める縁談を決めた。苦渋の決断だったが、どうしても必要なイニシエーションだった。

 さすがに戸籍もない出生不明のユキとは籍を入れられない。親の決めた相手で頷くしかなかった。形式だけの婚姻で構わない。向こうも財産目当てなのだ。

 跡継ぎ争いのごたごたが落ち着けば、ユキとふたりきりで安らかに暮らそう。誰にも文句は言わせまい。すべてがうまく行くように感じられた。

 タカシは家に帰ると、ユキにこのことを話した。

「誤解しないでほしい。不倫だとか内縁の妻だとか、そういう話じゃあない。一番愛しているのはキミだ。これからも一緒にいてほしい」

 しかしユキは、予想外にショックを受けたようだった。布団を頭からかぶって塞ぎこみ、部屋に閉じこもる。

 「ユキ、ユキ!!」

 呼んでも部屋の戸は開かず、タカシも頭を冷やさなければとその日はひとりで眠りについた。

 翌朝、マンションから忽然とユキの姿が消えた。タカシは部屋中を探しまわり、玄関のドアに取り付けられている防犯カメラもチェックしたが、失踪したユキの痕跡は見つからなかった。

 タカシが絶望にむさび泣き、挙句の果てには自殺用ロープを買う寸前だった。

 ユキは唐突に、何事も無かったかのように(生体認証付きオートロックをすり抜けて)部屋に戻っていた。彼女の右手には固く婚姻届が握られていた。どこで手に入れたのか。ユキはそれをタカシに突き出す。

 タカシは嬉しくて今すぐにでも彼女に抱きつきたかったが、必死にこらえてかぶりを振った。

「いや、気持ちは嬉しいさ。でも結婚はムリなんだ! いいじゃないか形式的な結婚なんて。俺達には愛があるんだから!」

 しかしユキは頭を強く横に振って、婚姻届を押し付けようとする。どれだけ説得をしようとしても、彼女は頑として言うことを聞かなかった。あれほどに無垢で素直なユキが、こんなことは初めてだった。

 何時間と押し問答が続いただろうか。

「いい加減にしろ!! なんだキミもあれか、俺の財産が目当てで近づいてきたのか? そんなに金が欲しいならいくらでもくれてやるから今すぐこの家を出て行け!!」

 カッとなって怒鳴ってしまった。すぐに後悔した。ユキは目に涙を浮かべていた。

 彼女が言葉でコミュニケーションが取れないことが、今となってはもどかしかった。ユキは声が出ないだけでなく、文字も書けないのだ。

「すまない……俺がどうかしていた」

 そっと抱きしめる。ユキの肩が震えているのがわかった。

「……わかってくれ」

 タカシは祈るように言った。

 

 縁談の方はトントン拍子に進み、やがて式をあげる前日になった。

 ユキはもう何も言ってこなくなったが、時折水槽の魚たちを眺めて、悲しそうな顔を見せるのだった。タカシにはそれが堪らなく辛い。

「心配ないさ。時がすべてを解決してくれる。これからだって一緒に暮らせるさ」

 タカシは自分に言い聞かせるように言った。

 ぽん、と優しくユキが肩を叩く。ユキは静かに微笑んで、手に持っていた雑誌の一ページを指差した。

 美しい海と、砂浜の写真が映っていた。旅行会社の広告だ。

 そうだな、うっとおしい結婚式の前に、恋人との思い出作りも悪くないか、と思う。

 

 タクシーを手配する。ユキは足が不自由だが、ゆっくりとなら歩くことができる。タカシが肩を貸してやり、ユキはマンションの外へ出た。タクシーは目の前に来ており、二人で乗り込んだ。タカシは一番近い、海が見える砂浜の名前を告げる。

 

「ユキ、もっと早くにこうして来ていれば良かったね」

 目の前には海が広がっていた。季節外れなので、海水浴客はいない。

 ユキはずっと海を眺めていた。海を隔てた遠い場所に、彼女の故郷はあるらしかった。もしもユキが本当に望むのならば、タカシは自分のすべてを捨ててでも、彼女の行きたい場所についてゆくつもりだった。

 やがて空が夕焼けに染まるまで、二人は寄り添ってずっと海を見ていた。このまま時間が止まって、セカイに永遠に閉じ込められたなら、どれほど良かっただろう。明日には結婚式があり、ユキを悲しませてしまうことが彼にはよく分かっていた。

 

「ユキ」

 タカシは恋人の名前を呼ぶ。

 彼女は振り向いて、手に隠し持っていたものをタカシに差し出す。

 それは銀色の装飾が施された、この世のものとは思えない綺麗な、綺麗な――。

 

 ――、綺麗な短剣であった。 

 ユキは短剣の刃の切っ先を、タカシの方へと向ける。

 彼女の青い瞳には、今も魚が泳いでいて、涙が溢れだしていた。

 

 タカシは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに理解した。自分が何を愛して、何に愛されていたのかを。

 導き出された真実はしかし、タカシを心の底から満足させるものだった。自分が生きている理由に、初めて気付くことができたのだから。

 

 夕陽が海に真っ赤な幕を降ろす。波が打ち寄せ、足元の砂をさらってゆく。

「そうか、キミは人魚だったんだね」

 タカシは、そのまま笑みをたたえて、泣いている恋人の肩を抱く。

 魔女の鏡の輝きを放つ、短剣の刃が、夕焼けの赤を反射させていた。

 

 タカシはこのセカイでもっとも愛する少女の瞳に、囁いた。

「ほら、もっと顔をよく見せてごらん」

 

【了】

 

リクガメを動物病院に連れて行った話

  飼っているリクガメの、上のクチバシがたいそう伸びていた。小松菜を食べさせてみると、伸びたクチバシが葉っぱを押し戻してうまく噛みつけないようだ。必死で口をパクパクとさせる。クチバシが邪魔をして、葉っぱを口の中に入れることができない。

 ロッシー(カメの名前)を動物病院に連れて行かねばと思った。病院に電話をかける。昔、ロッシーが風邪を引いたときにもお世話になった。

「ええ、大丈夫ですよ。では明日の朝お越しください」

リクガメの嘴

(写真:伸びたクチバシ ※野生下のリクガメは、地面に生えている野草を食い千切ったりする過程で自然にクチバシが摩耗するそうだ。飼育下だとクチバシやツメが過伸長しやすい)

  朝、まだ眠そうにしているロッシーを抱え上げて、体がすっぽり入るくらいのダンボール箱に入れた。底には新聞紙を敷き詰めてある。揺れた拍子に頭などをぶつけないよう、丸めた新聞紙も入れてやんわりとクッションを作っておく。ロッシーは外に出ようとして箱をガリガリと引っ掻いていた。リクガメは感情のわかりづらい生き物だが、十年も共に過ごしていると以心伝心で気持ちが通じる。ロッシーはとても不機嫌なのだった。

  朝九時、駐車場に車を停めた。ダンボール箱を両手に抱えて、動物病院の自動ドアをくぐる。待合室にはすでに、犬が七匹と、その飼い主さんが座っていた。犬たちはおとなしい。

【ロシアリクガメ:ロッシーちゃん♀ 12才☆ 毛色:―】と書かれた診察券を受付のボックスに入れて、私も椅子に座った。

  ロッシーは箱のなかで暴れていた。フタを開けてみると、なかで糞や尿をあらかた排泄してしまっていたようだ。私は汚れた新聞紙をポリ袋のなかに入れて、カバンから取り出した替えの新聞紙をダンボールの底に敷いた。

「わぁ、カメさんですかぁ」

 隣席の飼育者さんが興味津々で箱を覗く。

「はいリクガメで、以前は風邪で連れてきたのですが」「カメも風邪をひくんですねぇ。うちの子は予防接種で……」みたいな世間話を。リクガメは体の構造上、風邪を引いても咳やくしゃみができない。だから肺炎に移行して悪化しやすく、風邪といえども死に直結する恐ろしい病である。飼育者さんの連れているヨークシャテリアはこわばった表情で、ガリガリと音を発する奇妙な箱を見上げていた。

  名前を呼ばれ、私とロッシーは診察室に入る。診察台のうえにダンボール箱を置く。診察台には体重計機能があり、乗せるだけで動物の重さが測れるそうだ。緊急用だろうか、心臓に電気ショックを与えるための装置?が、台からぶら下がっていた。

 診察室の奥のドアが開く。獣医さんと動物看護師の方が入ってきて、私は軽くお辞儀をする。

 獣医さんは立派な黒ひげを生やした背の高いおじさんで、ハリーポッターの映画に出てくるハグリッドのような、優しい印象の人だった。看護師の方は好青年で、終始にこにこと微笑んでいた。

 獣医さんが箱から両手で取り出すと、さっきまで暴れていたロッシーは心底驚いたようで、顔と手と足を甲羅のなかにぴったりと仕舞い込んでしまった。完全なる防御形態である。数年前に風邪で連れてきたときは、抗生物質の注射を何本か打ってもらった。(前足の付け根あたりに注射針を刺すのだ)リクガメの記憶力は分からない。あのときの恐怖を覚えていたのかもしれない。

 リクガメの顔と手足がすべて甲羅に引っ込む姿は、飼育下では滅多に見ない。寝るときでさえ、カメは後ろ足をだらーんと伸ばしていたりする。

リクガメの昼寝

(写真:昼寝中のロッシー)

  獣医さんは胸にかけていた聴診器をロッシーの腹甲(おなか)に当てる。しばらくして、ロッシーの鼻の先を自分の耳に近づけて、目を瞑ってじっと音に集中をする。その間ロッシーは甲羅に引っ込んだまま微動だにせず、本当に石ころか何かになってしまったみたいだった。

「ああ、呼吸音は大丈夫ですね」

 獣医さんが言った。前回のカルテが残っていて、秋なので風邪を引いていないか心配してくれていた。私はほっとして、例のクチバシが伸びすぎている件について相談する。

 「なるほど診てみましょうか」

 と獣医さんが顔を覗き込もうとするが、完全に甲羅のなかに引っ込んでいて、おまけに顔は前足でがっちりとガードされている。クチバシの先すらも見えなかった。看護師さんがロッシーを後ろから両手で支えて、獣医さんが正面からゆっくり前足を横に引っ張る。ロッシーは必死で抵抗していて、意地でも顔を出さないつもりだ。

 「あはは、これは難しいかな」

 獣医さんは苦笑いしていて、私の方はなぜか緊張でドキドキしていた。

 そんなこんなで一悶着あり、やはりクチバシはカットした方が良いだろうという話になった。深見さんはここで待っていてくださいね、と言われ、ロッシーはそのまま抱えられて治療室に連れて行かれた。診察室の奥の扉が治療室に通じており、飼育者は入れない。

リクガメの嘴その2

(治療前の写真。上側のクチバシがかなり伸びていて、突き出ている)

 ひとり診察室の椅子に座り、時間が過ぎるのを待つ。壁には、飼育者から贈られた年賀状やメッセージカード、犬の正しい抱き方のポスター、予防接種の案内などが貼られていた。奥の部屋から電動工具のような音、看護師たちが慌ただしそうに歩いている足音などが聞こえてくる。犬がか細い声でクーンと鳴いている。リクガメは、鳴き声を出すことができないので、手術室でただひたすら声を押し殺して耐えている姿を想像すると、私はなんだか涙がこぼれてきそうになるのだった。

  私には何時間にも感じられたが十分ほど経った頃、獣医さんがロッシーを抱えて戻ってきた。ロッシーは相変わらず甲羅に引き篭もっていたけれども、クチバシはたしかに綺麗に切りそろえられて短くなっていた。

「二ミリほど削りました。まだ長いですが、これ以上切ると出血リスクもありますし。もしまだ餌が食べにくいようであれば連絡してください」

 私は獣医さんと看護師さんに深くお礼を述べて、診察室を出た。

嘴を削ったリクガメ

(治療後の写真。クチバシはまだ長いが、以前よりかは短くなっている)

  ロッシーは段ボール箱のなかで音一つ立てずじっとしている。

 会計は七六〇円だった。前回の風邪治療のときは、トータルで一万円近くした(もちろん医療保険はきかない)ので覚悟していたのだが、安くて驚いた。良心的な価格といえた。

  家に帰り、ロッシーを庭に放す。目の前にサラダ菜を置くと、ロッシーはやっと甲羅から頭を伸ばして、何事もなかったかのように葉っぱにかぶりついた。

リクガメとサラダ菜

 (おわり)

関連記事:リクガメは二足で立ち上がる

「ふぇぇ…炎上したよぉ……」「反省会をしましょうか」

ときちゃんの目論見どおり、昨日の記事はヒットしたようです。

当ブログ悲願の『ホッテントリ入り』&『100はてブ超え』を達成しました。もうすぐ200はてブに届く勢いですし、良かったで……ってあれ、元気ありませんね。

ふぇぇ…はてな民こわいよぉ……。

うちも80はてブくらいまではヒャッホーと舞い上がってたんやけど、次第に批判的なブコメとか言及記事が出てきて、100はてブ超えてからは恐怖で布団のなかに頭を押し込めてガタガタと震えてたんや。

『素敵な記事ですね! シェアさせていただきます!』みたいなコメントで溢れかえるかと思いきや、的を射た鋭いツッコミがぽこぽこ飛んできて、うちのライフはもうゼロや……。

なんという豆腐メンタル……。

承認欲求を糧にして炎上記事を書くことの危険性は『はてな村奇譚』で学びましたよね。焼畑農法のような手法で記事を書き続けていれば、いつしか自分自身が底のない承認執着の沼へと沈み込んでしまうのです。

昨日の記事への反論は、大別すると以下の3つに分類できます。

1.主張の「無根拠性」の指摘

主張「広告ブロックが導入されても広告主はダメージを受けない」

反証「主張には根拠がない。AdobeとPageFair社の共同調査によれば、広告ブロックによる損失額は2兆円以上と算出される」

このように、相手の主張内容の「根拠」に対してツッコミを入れるのが、もっとも効果的な反論方法です。主張には前提となる根拠が必要なので、ここを崩されると手も足も出ないわけです。

2.主張の「推論過程」への反論

主張「広告ブロック導入者は、広告が嫌いでもともと広告を見ない。ゆえに、はじめから商品訴求ターゲットから外してしまっても構わない」

反論「商品購買層である一般ユーザーにまで広告ブロックアプリが普及してしまうことが懸念されている。広告を嫌悪していないが、通信費節約やなんとなくでブロックアプリを使う一般ユーザー【カジュアルブロック層】の存在があるので、はじめから商品訴求ターゲットから外すのは間違いである」

これも有効な反論です。これはディベートだと『深刻性への反論』と呼ばれていて、「じつはたいした問題じゃないんじゃないか?」に対して、「いやいや、すごく重大な問題なんだよ」(逆パターンもある)とやる方法です。

よくある『メリット vs デメリット』対決では、メリット側が「デメリット側の主張する問題は深刻性がないだろう」と反論し、デメリット側が「いいや、深刻な問題だ」と争うわけですね。

3.拡大解釈へのツッコミ

主張「商品に興味のあるユーザーがバナー広告をクリックすることに意味がある。アドブロッカーは元から広告をクリックしないので、非表示にしても問題ない」

反論「クリックされずとも、バナーが表示されることには販促上の意味がある。商品に興味のないユーザーにとっても、バナーを見ることが商品を知るきっかけとなる。インプレッション(広告表示回数)は重要な指標のひとつである」

バナー広告を出稿するときに「クリックされないと意味が無い」か「バナーが表示されるだけでも意味がある」かは、広告主のビジネスモデルによって変わってきます。

例えば以前に言及した、アニメCharlotte番宣広告、ゲームソフトの咲-saki-全国編 PSvita、GOD EATERの発売日告知バナーなどは、バナーが表示されてユーザーの目に届くだけで目的を果たしているといえます。

バナーを見れば「あ、来月に○○の新作が発売されるのか。よし、Amazonで予約しておくかな」となるからです。だから、クリックされなくても良い。ゲーム発売の告知だけでなく、ブランドを重視する企業なども、広告が表示されるだけで知名度アップに繋がるので、それで良いのです。(だからこそ、クリック数だけでなく、インプレッション数で費用を取られるタイプのWeb広告が存在します)

ランディングページを作ってそこからの商品購入を目指している場合は、たしかにクリックされないと意味が無いのですが、そうでないケースも多々あるのですね。

「自分がそうだから、他の広告主もきっとそうだろう」といった拡大解釈的な推論飛躍に対するツッコミが、上記のものです。

一番反省していること

今回もっとも反省しているのは『会話形式のブログ』の利点を活かせなかったことですね。会話形式の記事では、ひとりの話者の主張に対して、もうひとりが反論するという『ディベート(討論)』を展開することが可能です。

つまり、ときちゃんの主張に対して、私がもっと的確なツッコミ(上で指摘したような反論)を入れて議論を深めていれば、もう少し良い記事にできたでしょう。

会話形式文体を効果的に扱えなかったのが最大の反省点です。これからもっともっと精進していきましょう。

新たに読者登録してくださった方ありがとうございます。

これからも『ときまき!』をよろしくお願いします。

(おわり)

広告ブロックでWebメディアは衰退しないし、アドブロッカーはフリーライドではない

燃え上がっている話題に便乗して、炎上PVを稼ぐのは正直どうかと思いますが……。

ええやん! どんどん燃やそ!!!

「Webメディア運営者 vs アドブロッカー」という対立構造の誤謬

広告ブロックのアプリが氾濫すれば、広告収益でブログやサイトを運営している人は、損失を被る。ゆえに広告ブロック問題を語るときに『Webメディア運営者 vs 広告ブロッカー』という対立構造が用いられるのんやけど、これは大きな間違い。

上の図のような構造は、前提として間違ってるんやね。

Webメディアがユーザーに対して、記事コンテンツを提供しているのは正しい。しかし『ユーザーがコンテンツの対価として、運営者に収益を与えている』というのは間違い。

上図のような認識だと『コンテンツの対価を支払わない広告ブロックユーザーはフリーライド(ただ乗り)をしている!!』といった発想をしてしまう。

実際は、ユーザーはコンテンツに対して何の対価も支払っていない。支払っているのは閲覧ユーザーではなくて、広告主や! ユーザーではなく広告主!!

よって正しい認識は次の図のようになる。

ユーザーは、興味のある広告をクリックするだけ。そして、広告主がWebメディアに対しての対価を支払っている。よって対立構造は『広告主 vs 広告ブロッカー』という視点から論じるべきやね。

何が違うんかって言うと『Webメディア運営者 vs 広告ブロッカー』であれば広告クリックは収益となるのに対して、『広告主 vs 広告ブロッカー』であれば広告クリックは費用となること。

広告主は、ユーザーがバナーをクリックするたびに費用を支払わなければならないのだから、Web運営者側とは正反対の考えをする。

『広告がクリックされれば(俺たちは)儲かるからいいんだ!』ではなく、『商品を購入する意欲のあるユーザー、商品に興味のあるユーザーにだけ、広告をクリックしてほしい』

広告主が望むこと

  • 誤クリックを避ける
  • 商品購買意欲のないユーザーのクリックを避ける
  • 商品購買層のユーザー以外へのバナー配信を避ける

こうすることで、余計な広告コストを削減できるし、1クリックあたり換算の儲けを最大化することができる。

Adblockユーザーはもともと、バナークリックして商品を購入する可能性の極めて低い人たちなので、彼らが広告を非表示にしたところで何一つ困らない。むしろターゲット選定の手間や、誤クリックが減ってありがたいくらい。

(ただしパケット節約とかの目的で、商品購買層にまでAdblockが普及して、広告ブロックが導入されるのはめっちゃ困る。そうなればうちは手のひらを返して「アドブロック滅びろ!!」と叫ぶ。広告嫌いな人が、広告を消す目的で入れる分には構わない。そうでないパターンが困る)

とにかくここで主張したいのは、広告が嫌な人がAdblockを入れたところで、広告主は何一つ損をしないこと。誤クリックや望まぬクリックが減るのであれば、嬉しい。そうなれば広告主としては、1クリック単価をもっと引き上げて出稿したって構わない。スポンサーが安泰でこれからも広告料を支払う意思がある以上、広告ブロックでWebメディアが衰退するわけがない。

せやから広告ブロックしてる人は「フリーライダー(タダ乗り野郎)」でも何でもない。元から広告配信すべきターゲットユーザーではないというだけの話。

以上、ダンガンロンパ!

最後に、ポジショントークと言われたくないから弁解するけども、うちは一切広告ブロックはしてないで。Webビジネスを営むものにとって『他社の広告』ほど貴重な情報源はないからな。バナー広告は誰よりもよく観察している自信がある。

ずいぶんと煽りましたね。もうどうなっても知りませんよ……。

もしこれで炎上したら、私だけ別ブログに逃げ込んで知らないふりをしますからね!

ええのええの、これでホッテントリ入りしたら、広告いっぱい貼って、まねまねマネタイズや!!

(おわり)

この記事の元ネタ(くっ…増田に釣られてしまうとは……)

関連記事

リクガメは二足で立ち上がる

 リクガメを飼育していて一番驚いたのは、彼が二足で立ち上がることだった。リクガメは私が考えているよりもずっとアクティブで、岩や植木鉢によじ登ったり飛び降りたりなどの立体動作は平気でこなす。そしてたまに甲羅からひっくり返ってしまって、自分では起き上がれなくなる。うかつに目が離せない。

壁により掛かるリクガメ

 壁面により掛かるようにして、彼は身を起こす。何だこの程度かとがっかりされたかもしれない。でもまだ本気を出していない。

すだれを押しのけるリクガメ

 転落防止と日除けのために、上にはすだれをかけていた。いともたやすく前足で払いのけられてしまった。彼は壁の向こう側のセカイを目指しているようだ。

立ち上がろうとするリクガメ

 外に出たがっているようで、切なくなってくる。今度散歩に連れて行こうと思った。

直立するリクガメ

 完全に、二本の足で直立している。アルプスの少女もびっくりだろう。その姿にはどこか力強い意志を感じる。

チンゲンサイを食べるリクガメ

 壁を乗り越えそうな勢いなので、慌ててチンゲンサイを見せると、すぐに戻ってきた。このヨツユビリクガメは完全草食性とされる。チンゲンサイやコマツナなどの生野菜のほか、タンポポ、オオバコ、カラスノエンドウ、クズ、猫じゃらしの葉っぱなどの野草を好む。バナナやイチゴやメロンなども大好きだが、果物の上げ過ぎは健康に良くないそうである。タンポポの黄色い花や、シロツメクサ(クローバー)の花も大好物だ。

 爪と嘴がだいぶ伸びてきた。来週にでも動物病院に連れて行こうと思っている。リクガメは冬眠をする。けれど飼育下では、室内で冬越しをさせるため、けっこうな暖房代がかかる。餌も、ドッグフードやキャットフードのような万能食が存在しないから、野草の採取や家庭菜園に勤しむ必要がある。それから床材の土も交換しなければ……。

 このようにリクガメ飼育はなかなかの手間暇がかかるのだけれど、かわいい。生涯付き合っていきたい生き物だと思った。

(おわり)

はてなの『ヘッダー』を消すと一部Androidブラウザでブログがスクロールできなくなる問題について

 スマホ版はてなブログの、上部に表示されるヘッダー。

 はてなブログProのユーザーであれば、cssを追記して、display:none;で消すことができる。あるいは、レスポンシブ対応のテーマを使えば、『設定』→『ヘッダとフッタ』から、非表示にすることができる。

 このようにしてヘッダーを消した場合に、ごく一部で起こりうるバグについて紹介する。

Androidブラウザ2.3系だと、ブログがスクロール不能になる

 Androidのスマートフォンには『ブラウザ』という名前のブラウザアプリが標準装備されている。なかでも2011年頃に普及したAndroid version2.3系のブラウザはいろいろと不具合が多く、多くのWebデザイナーが泣かされた。

(例えば『ページトップへ戻る』のアンカーリンクが無効化されたり)

 なかでも隠しコマンド的なバグとして恐れられたのが『iframe要素をdisplay: noneすると、スクロール不能になる』というもの。ページがスクロールできなくなるので、実質的にその端末ではコンテンツが読めなくなる。致命的だ。

 お気づきのとおり、はてなブログのグローバルヘッダーはインラインフレーム(iframe)である。ゆえにヘッダーを消すと、ごく一部のAndroid端末では不具合が生じる。

 実機(NEC N-06C MEDIAS WP N-06C for DoCoMo/Androidブラウザver 2.3.3)で確認してみたところ『ヘッダーを消しているはてなブログ』の30のうち6ブログは、当機ではスクロールができずに記事が読めなかった。

 じつは昨日、ブログ開設一周年記念にブログデザインを変えたのだが、このときに発覚したのがこの問題。原因を突き止めるのに休日を6時間も消費してしまった。悔しい。

対処法はあるの?

 css追記での対処は難しいと考えられる。

 bodyの「overflow:hidden」を「scroll」で上書きして、#wrapperで再び「hidden」かけるとか……したら行けるのかもしれないが、すごくモヤモヤする。

 あるいは、display:none以外の方法でヘッダーを消してみるとか。

 position:absolute; bottom:-999999;のたぐいの禁術を使って、『ヒャッッハーーーー!!! ヘッダーもろとも宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやるぜーーーーーー!!!!』みたいな。いや、これはオススメしない。それこそどんな不具合が起こるか分からないし、SEOでペナルティを受ける可能性がある。

対処法1.ブログのデザインテーマを変える

 スマホ版ヘッダーを非表示にしているはてなブログでも、30のうち24は問題なくスクロールできた。つまり多くのブログでは、ヘッダーを消しても大丈夫ということ。ごく少数の「デザインテーマcss」と「ヘッダー非表示css」が融合し、そこへさらに希少種である「Android 2.3.x」が加わってこの奇跡的なバグは発生するらしい。

対処法2.ヘッダーを消すのをあきらめる

 途中で考えるのが面倒になって、このブログでは結局ヘッダーを消すのはあきらめた。はてなユーザーであれば、むしろヘッダーがあった方が何かと便利なので(すぐに記事を投稿できたり、購読中のブログを確認できたり)まぁいっか☆と思った。

 ヘッダーの『追尾機能*1』は画面が狭くなるのが嫌だったので、css追記でオフにした。

 具体的には「#globalheader-container {position: fixed;}」を {position: relative;}で上書きする。absoluteでも可。使用テーマによってはセレクタの指定方法が変わってくる。

 Proではヘッダーを消すのがOKなくらいなので、追尾機能を消しても怒られることはないだろう。(公式テーマでも追尾しないタイプのがあるし)とにかくこれで、スクロールしてもヘッダーがついて来ない。バグも起こらない。

対処法3.対処しない

 おそらくこれが一番良いだろうと思う。今回の事例ははっきり言って、超レアケースである。Androidブラウザver2.3.3は、未来には完全に消えゆく運命だ。2015年でver 5.1まで更新されているので、わざわざこんな古いブラウザでネットを見るユーザーは少ない。今ならSafariだってChromeだってOperaだってスマホで使える。

 対処しなかったところで、SEO(モバイルフレンドリー)への影響は皆無であり、Adsense等の収益への影響もほぼ無いと断言できる。

 つまりは、気にしないのが一番ではないかと。

おわりに

 ここまで引っ張っておいて、こんな結論になってしまってなんだか申し訳ない。個人的にはけっこう悩んでいた問題で、こと「はてなヘッダー問題」に関してはググってもまったく情報が出てこなかったので、もしかしたら自分と同じような人が検索してきたときの助けになればと、記事を書いた。以上、お役に立てれば幸いである。

 

(おわり)

*1:ページをスクロールしてもヘッダーが上部固定されたままついて来るデザインで、現代ではお洒落だとされている。ツイッターなどが有名


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