ときまき!

謎の創作集団による、狂気と混沌の執筆バトル。

第2回ショートショートコンテストの審査員特別賞に選ばれました!

 お久しぶりです、海鳥まきです。

 今月は多忙に多忙を極めましてとてもブログ更新の時間が取れず、ご心配をおかけしてごめんなさい。私は元気です。(ぐるぐる目

 本日、ケータイ小説サイト『星の砂』にて、第2回ショートショートコンテストの優秀賞発表がありました。

 ケータイ小説&コミック【星の砂】第2回ショートショートコンテスト優秀賞発表

 

 私の投稿した『グランマーク・フライトバルト氏の死に関して(海鳥まき)』は、嬉しいことに審査員特別賞に選ばれました。

 小説で何かの賞を獲るのはこれが初めての経験で、作品を読んでくださった方からもご感想をいただけて、本当に嬉しくて嬉し泣きです。読者の方々に深くお礼申し上げます。

 出版社の賞ではないため、プロデビュー云々といった話とは関係がないのですが、これを糧としてさらなる創作活動に励み、物語構成と描写技術の向上に努めたいです。まだまだ研鑽を積まなければ、足りません。

 書いて書いて、書きまくる。文才がどうの語彙力がどうのと悩んでいる場合ではなく、とにかく書くしかないのです。小説を書くのは苦しいです。100文字200文字の文章を積み重ねて、それを最終的に10万文字を超える作品にしなければいけない。

 途方に暮れます。本当にこの原稿は完成するのか。〆切に間に合うのか。そもそも、自分の作品は面白いのか。書いていて辛い。書くことに意味があるのだろうか。それでも、書く。何が何でも、書く。書き切るしか、ない……。

 ともあれ、今回のショートショートコンテストの原稿は、書いていてとても楽しかったです。今現在、苦戦を強いられている長編原稿のほうも、……が、頑張ります!

 ではまた3月にお会いしましょう。次回にブログを更新する頃には、原稿も完成しているはずです。(完成していると信じて……)

 

(終わり)

 

小説を書くのは苦しい

「小説を書くのはすっごく楽しいよ」というのは、強者もしくは狂者の論理であり、真に受けると痛い目を見る。小説を書くのは、苦しい。基本的に苦しい。どのくらいの苦痛を伴うのかは、私の執筆中の表情を見てもらえればわかる。私は小説を書くときは、ムンクの叫びのような顔をしている。

 私はよく、長編小説を書く行為をマラソンに例える。マラソンはつらい。脇っぱらが痛くなってくるし、呼吸もきつくなってくるし、そのうち自分が何のために走っているのかわからなくなる。すべてを投げ出して、草原に寝転がりたくなる。どうしてこんなに苦しい思いをして走らなければならないのか。けれど、走るのだ。ゴールにたどり着くために。

 苦しい、苦しい、と喘いでいると、耳元でこんな声が聞こえてくる。

「苦しいなら無理して書く必要はないんですよ。僕は小説を書くのが楽しいです。小説を書きたくて書きたくて、今にも筆が踊り出すような人は、世の中にたくさんいますよ。わざわざあなたが苦しむ理由がどこにあるんですか? さあ、筆を折ってしまいなさい。そしたら楽になります」

 耳を傾けてはいけない。悪魔の戯言だ。

 けれども、自分が何のために小説を書くのかは、知っておく必要がある。アンパンマンの歌詞のように、人は理由や目的を見いだせなくなると気力を失ってしまう。最近インターネット界隈で大流行している『承認欲求』は小説を書く動機となり得ようか。

 他者から認められたい、俺のことを見下すあいつをぎゃふんと言わせてやりたい、受賞して有名になってちやほやとされたい。作者と作品は切り離されるから、どのような動機で小説を書くのも自由だ。走れて、完走さえできればそれでいい。けれど実体験から言わせてもらうと『承認欲求』は思いの外、書く動機としては役に立たない。なぜならば、承認欲求は小説を書くことでは滅多に満たされないからだ。

 私が長編小説を書き上げて賞に投稿したとして、次に待っているのは99%の確率で『一次落選』の無慈悲な現実。同じ小説家志望の友人に原稿を見せれば、それはもう駄目出しの嵐がやってくる。また別の仲の良い友人に読ませてみれば「面白かったよ」と返してはくれるものの、声はどこか乾いていて笑顔が引きつっている。はなから小説に承認欲求の充足を期待するのはお門違いなのだ。承認欲求ならば、ツイッターでイイネ!を貰ったりブログでスターやコメントを貰ったりしたほうが、100倍は満たされる。

 では小説を書くメリットなんてないではないか。それとも苦痛をマゾヒスティックな快感に変えれば良いのか? なんて声が今にも聞こえてきそうで、私も頭を抱えて震えている。たしかに、小説を書くことのすべてが「苦痛」だとするのは言い過ぎだった。苦しみの狭間に、執筆時特有の恍惚とした甘い美酒が、自己酩酊と自己陶酔の心地よいひとときが、やってくるのも確かだからだ。

 マラソンであれば「ランナーズ・ハイ」に該当する「ライティング・ハイ」の瞬間が、小説を書くときにもやってくる。書く人ならば誰もが体験するだろう。「執筆の神様が降りてきた」「憑依」「トランス状態」「ゾーンに入る」など表現はさまざまあるが、執筆中に脳内麻薬がドバドバと分泌される至高の時間が、たしかに訪れる。が、そうはいっても小説を書くことは基本的には苦しい。まぐれ当たりのような快楽は、あまりアテにはできない。掌編ならばその場の酔いで書き切れても、長編となると話は別だ。地道でコツコツとした根気が要る。

 私に小説を書かせる理由があるとすれば、それは「恐怖」だ。私は初恋の相手が、夢のなかの人物だった。(もちろんレム睡眠時に視るあの夢である)夢だから、目が覚めると記憶はだんだんとおぼろげになっていき、やがては完全に忘れてしまう。私は自分の恋した相手を忘れるのが怖かった。だから文章という形で、恋人の姿を遺しておこうと考えた。画才があったのなら絵にしたし、ピアノが弾けたのなら曲にしただろう。とにかく、忘れたくない恐怖が私に文章を書かせた。

 考えてみてほしい。現実世界で私たちが生きることと、虚構世界で小説の登場人物が生きること、この両者に果たして差異はあるのだろうか。私は毎日仕事のルーチンワークで冷凍イカのような瞳でパソコンのキーを叩いているが、それと比べれば恋愛小説のなかのヒロインのほうが遥かに実存的に「生きている」と言えるのではないか。

 ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を読んだとき、私は現実世界に住まう人間よりも、虚構世界に住まうキャラの方がずっと生命に満ちた存在であるような気がして、身震いがした。

 パソコンのフォルダに入れた未完原稿のファイルから「助けて……あたしをここから出して……」と声が聞こえてくる。恐る恐るdocxのファイルをダブルクリックしてみると、途中で投げ出してしまった物語のヒロインが恨めしそうに声をあげるのだった。「ねぇ、あたしの人生はここで終わりなの? このまま誰にも知られずにあたしは死ぬの?」悲痛な叫びはやがて作者の私自身をも呪い殺してしまいそうで、私は頭を抱えながらも原稿の続きを書き始めることを余儀なくされる。ちなみにその原稿はホラー小説だった。

 もしも私が小説を完成させなければ、このヒロインは一生私の頭のなかに住み着き、悪夢を見せようとするかもしれない。だから早く書き上げたいと思う。筆者である私と、キャラクターとが完全に切り離されたとき、そして私以外の読者と出会えたとき、キャラクターはようやく本当の命を手にする。物語は作者の手を離れ、読者の元へと届く。そこがゴールであり、走り切った私は、安心してお布団に潜り込めるようになる。

 こんな意味不明な長文を書き連ねてしまうほどには、小説を書くのは苦しいし恐ろしい。けれど、それがどうした、それで良いのではないかと思う。小説家は「まんじゅうこわい」と泣き叫びながらも、まんじゅうをパクパクと喰らうてしまう人たちなのだから。

 最後に、『走れメロス』の一節を引用して締めくくりたい。

間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。

引用:太宰治『走れメロス』

(了)

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2015年後半期 増田文学大賞(はてな匿名ダイアリー)

「はてな匿名ダイアリー」に投稿された、秀逸な創作作品の数々をご紹介したい。タイトルの通り、2015年7月~12月に投稿されたエントリーを対象とした。2015年前半期については2015年前半期 増田文学大賞(はてな匿名ダイアリー)の記事をどうぞ。 

 この記事で伝えたいことは、本当にもうただひとつ。

「増田、大好き。」

 増田文学大賞という大層な名前をつけてしまったけれども、これは僕個人から名の無き作者たちに送るラブレター(ファンレター)だと思ってもらえれば嬉しい。

増田文学大賞

 それではさっそく。一応、コメントで物語内容についても触れているため、ネタバレを避けたい人は先に元記事の方を読まれたし。

ミステリー部門

 これはもっと評価されるべき、と声を大にしてレコメンドしたい作品で、個人的にはとても気に入っている。トラックバックの方で余計な茶々が入ってしまっているのが残念だ。

 系統としては「意味がわかると怖い話」に近い。おそらく一般の人々がこれを読んでも意味不明だとは思うのだけれど、少なくとも「増田文学」の検索キーワードでここに来られた人々が読めばきっと唸り声を上げるはず。

 伏線の敷き方とそれを開示する(読者に気が付かせる)タイミングがとても上手い。冒頭で主人公が「インドア派だけどサーフィンをしている」という情報がすでに一つ目の伏線となっていて、ネタが分かってからだと嗚呼だから作者はあえてこのような書き方をしているのかと感心させられる。

連載小説部門

  1. 疲れている人
  2. それは牡蠣ではありませんよ
  3. さようなら疲れている人
  4. 最後の砦
  5. 【疲】れていたのは私

 いやはや、これはすごい。何がすごいのかと言うと「連載小説としてもショートショートとしても読める」ところ。もともと増田に投稿する以上、連載で書き進めるなんてことは不可能に近い。読者登録ボタンもなければ、作者の同一性を担保する仕組みもないのだから。

 ところがこの作者は「タグ機能」も「トラックバック機能」も一切使わずに、自らの《文章》だけを鍵として、物語の続編を書き進めている。投稿を時系列のとおりに読まなくても独立した物語として引き込まれ、しかも大いに続きが気になる。

掌編部門

 物語としての内容はとくにない。文章をやたらめったら面白くすることに特化した、レトリックレトリックした作品。その場のノリだけで書かれたらしいも、勢いが素晴らしい。馬鹿げているけれど愛さずにはいられない文章。

歴史小説部門

 増田と増田ブックマーカーを題材とした嘘歴史なのだが、文体から醸しだされるリアリティがとてつもない。まるで歴史書を紐解いているかのような錯覚に襲われる。内輪ネタと言えばそれまでなのだけれど、この文章はなかなか書けるものではない。

「僕、最近は増田文学にハマっていてね」

「ますだ? 聞いたことがないな」

「ふっ、キミ、増田文学も知らないのかね。いまや増田は日本史の教科書にも載っているんだがね」

 とか何とか適当なことを言って、このエントリーをプリントアウトしたものを見せれば、きっと騙せそうである。そのくらいに良くできた文体。

エンタメ部門

 本当であれば、本作を後半期の「増田文学大賞」とする予定だった。しかしどうやらこの文章、「はてな匿名ダイアリー」が初出ではないようだ。2004年に「あやしいわーるど」というネット掲示板に投稿されたらしい。(詳細は不詳。どういうわけか本エントリー末尾ではCC0[No Rights Reserved]表記がある)

 なので、本来はこのエントリーを「増田文学」として紹介するのは間違っている。けれども、この投稿はあまりにも傑作であり、今期に増田で読んだ文章のなかでは間違いなくベストなので、とりあえず紹介だけはしておきたい。

 文章表現、物語展開のひとつひとつをとっても、まさにホラー小説のお手本のような作品である。ことエンターテイメントにおいては「主人公がどのように変化をするか」を描くのがもっとも重要で、本作では主人公の心理の移り変わりを『ハンカチおにぎり(ドラコ)』というアイテムに投影して物語を進めている。

 あくまで物語の核は「ドラえもんのひみつ道具」でありながらも、実際に描かれているのは人間関係の変化であり人間心理の変化なのだ。作中の《アイテム》の描き方が卓越している、素晴らしい文章作品。

青春小説部門

 文章表現としてはそこまで凝っておらず、淡々としているし、小説らしいレトリックもほとんど使われていない。けれど、切ない読後感が良かった。「初頭効果と終末効果」と言うらしいが、本作は「書き始めと書き終わり」がうまいなと感じる。

『クリスタルガイザーの蓋もあけにくい。』という一文から始まって『手は離さなかった。』の一文で書き終わる。話の繋げ方がなかなか読ませる。変なオチや結末をつけずに、その後を想像させる余地を残して物語を終えているのも余韻があって良かった。

レトリック部門

 ひとつ前の「ビンの蓋~」とは対照的に、レトリックを積極的に取り入れている作品。内容としては「飼っていたヒヨコが野良猫に襲われてしまった」というだけで、主人公の対立・葛藤・変化も、物語性もない。純粋な文章表現のみで勝負している印象を受ける。

 エントリーを読んでみると分かる通り、本作は特徴的な比喩表現を用いている。

  • 脂ぎっているような白熱灯
  • うじゃうじゃとまるで「蜘蛛の糸」を待つカンダタのような感じ
  • 落語の道楽若旦那もうらやむような生活

(引用:『ひよこ』)

 よく私たちが「文才、文才!」と褒めそやしているのは、じつは「天賦の才」の類ではなく、「勉学によって身につけられる修辞技法」なのだ。なんでもかんでも才能のひとことで片付けてしまうのは傲慢なもので、名文を書く人はやはり人一倍の努力をしている。本作からは「文章を面白くしよう」とする熱意が伝わってきて、そこが胸を打った。

2015年ベストオブ増田

 2015年を総括すると、『前半期』の方で大賞に選んだ「うちの金魚の半生」が増田文学のなかで最高だった。これはもう本当に、素晴らしい。

終わりに

「なんであの傑作増田が選ばれてないんだ?」みたいなのがあれば(多分投稿を見落としているので)ぜひ教えていただければ嬉しく思う。

 じつは少し前に『はてなグループ』というサービスを使って増田文学部なるものを作ってみた。トップページから匿名ダイアリーの新着ホッテントリ10件と『増田文学』タグのついたエントリーの最新10件を見ることができる。増田文学部では、はてなユーザーであれば日記や掲示板を自由につくれて、自由に増田語りや増田レコメンドができる。(果たして需要があるのだろうか……。)もしよろしければお気軽に。今回、ブログの方で紹介し切れなかったエントリーも、この増田文学部のほうにまとめておきたい。

 ではでは、次回は2016年前半期でまたお会いしましょう。

(おわり)

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小説らしい文章の作り方(M式縛りプレイ執筆法)

海鳥まき

 お久しぶりです。私の単独記事は7ヶ月ぶりですね。ご無沙汰しておりました。

 海鳥まきと申します。初めましての方は初めまして。

どうすれば小説っぽい文章になるの?

 さてさて、本題に入りましょう。精神論や抽象的な創作論をとやかく述べるつもりはありません。私がするのは具体的な話のみ。夜空の月を手に入れたいと悩むより、池で泳いでいるスッポンを捕まえて鍋にして食べたほうが身になります。ここでは制御可能な小説文体について語ります。

【問い】下記の例文から「小説らしい文章」を作るにはどうすればよいか。

 今日は雨が降っていた。けれども、私はピクニックに出かけようと思った。

1.「接続詞」を使わない

(修正前)

 今日は雨が降っていた。けれども、私はピクニックに出かけようと思った。

(修正後)

 今日は雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

 例文で示したいのは『雨なのにピクニックに出かけようとする主人公の異常性』です。ゆえに、この文章では読者に(どうして雨なのにピクニックに行こうとしたのかな?)と疑問に思わせなければいけません。

 主人公の一人称で『けれども』と言ってしまうと、それだけでもう主人公が常識的観念を持った人物になる。それでは物語として面白くなさそうです。省ける接続詞は徹底的に省いた上で、描写に説得力を持たせる必要があります。

「けれども」「しかし」「だから」「ゆえに」「なぜなら」「そして」などの接続詞が文中に出てきた場合には、代替表現を考えます。

2.特定できない「時間」「場所」の表記を使わない

(修正前)

 今日は雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

(修正後)

 彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

『今日』は読者にとっては特定不可能な表記です。『今日』は2015年の12月20日かもしれませんし、1872年の5月2日かもしれません。小説作中の時間表記では客観的時間と主観的時間の双方を明示する必要があります。

客観的時間

 年代、季節、時間帯を示す。

主観的時間

 主人公にとってその時間がどのような位置づけにあるのかを示す。

3.「思った」「感じた」「考えた」を使わない

(修正前)

 彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った

(修正後)

 彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はトートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

「思った」「感じた」「考えた」は便利な言葉です。しかしこれらに頼ってしまうと、なかなか具体的な描写になりません。なるべく回避して、代替表現を考えます。

4.「あの」「その」「この」「どの」などの指示語を使わない

(修正前)

 彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はトートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

(修正後)

 スマホのアラームで目を覚ます。待ち受け画面は2月14日の午前6時を示している。『バレンタイン・デー♡』のスケジュール通知が私の心を苛立たせた。彼氏と別れて三日目の朝、カーテンを開けると窓の外は雨だった。どしゃぶりの雨。

 お気に入りの服に着替える。軽く化粧をして、後ろ髪をシュシュでくくる。トートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

「わたあめ」のように文章を組み立てる

 いかがでしょう。たった34文字だった例文が、最後には212文字にまで膨れ上がりました。およそ6.2倍ですよ。わたあめみたいですよね。わたあめと同じです。たったひと匙の砂糖の甘さを伝えるために、ふわふわと文章を大きくしていくのです。

(※例文で伝えたいのは『雨なのにピクニックに出かけようとする主人公の異常性』であり、このたったひとつを伝えるためにあらゆる描写が存在します)

  今回「接続詞を使わない」「指示語を使わない」などの条件をつけました。けれども、小説文体で接続詞や指示語を使っては駄目なのでは決してありません。

 重要なのは「○○を使わない」と縛りを課すことによって、より適した代替表現が見つかることです。これが、名付けて「M式縛りプレイ執筆法」です。

表現の幅を広げるための「縛り(使用制限)」リスト

  • 接続詞の禁止(しかし、だから、そして……)
  • 曖昧の「が」の禁止(私は彼にフラれたが、あきらめがつかない)
  • 接続詞「ので」の禁止(晴れたのでピクニックに行こう)
  • 指示語の禁止(この、その、あの、どの、ここ、そこ、あそこ……)
  • 「思った」「感じた」「考えた」の禁止
  • 特定できない「時間」と「場所」の表記の禁止
  • 「AというB」の禁止(劣等感という感情が私を際限なく苦しめた)
  • 「~と言った」の禁止
  • 「頷いた」「振り向いた」「微笑んだ」の禁止
  • 三点リーダーの禁止
  • 文末重複の禁止(~だった。~だった。)
  • 「~のような」の禁止(直喩)
  • 「こと」「もの」「とき」の禁止(私にとって悲しいことだった。/それは嫉妬とも呼べるものだった。/私が彼に初めてあったとき…)

 挙げればキリがありませんね。もしも自分の文体の《癖》が把握できていれば、使いがちな表現を禁止してみましょう。きっと表現のバリエーションが広がります。いわゆる《縛りプレイ》です。

 水泳の練習をするときに脚にビート板を挟んでバタ足ができないようにする、テニスの練習をするときに利き手にリストバンドの重しをつけて《スネイク》を打てなくする。なかなかにマゾヒスティックな手法ですが、水泳やテニスでできて小説でできないわけがありません。

 小説文体を作っていくための最大の秘訣は「自分に制約を課して代替表現を探す」の一点に尽きます。文体を分析するとき「どのような表現が使われているか」ではなく「どのような表現が使われていないか」に着目して見ると面白いです。

 ではでは、今日はこの辺で。ありがとうございました。

(終わり)

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第15回短編小説の集い テーマ『過去』の感想

 第15回短編小説の集い、テーマは『過去』

 今回は私も参加したかったのですが、なかなか書く時間が取れず……。

 さておき、参加者さんのご作品読みました! せっかくですので、感想を書いてみようと思います。完全読者目線です。

 また、前回と同じくネタバレ前提で感想を書いていきますので、まだ読んでないよーという人は、先に投稿作品の方をぜひ読んでみてください。

感想

『細胞凍結技術』ではるか未来にタイムスリップしてしまった主人公。いわゆるクライオニクス(人体凍結保存)ですね。時にして2207年。主人公の家族や知人は、みんな死んでしまっています。物悲しい雰囲気が、作品全体に漂っています。

 本作で特筆すべき点は「おせち」がモチーフとして用いられている点です。私はこれを非常に重要視しています。なぜ、人体冷凍保存で未来に辿り着いてしまった主人公のテーマが「おせち」なのだろうかと。たまたま今が12月で、おせちシーズンが近いからではありません。

 あくまで一読者としての感想ですが「おせち」が用いられている点に、私は明確な意図と必然性を感じ取りました。換言すれば「何故これほどまでに、おせちの重箱と、過去―未来の話はしっくり来るのだろうか」と。タイムスリップとおせちが、あまりにも見事にマッチしているのです。読後、ずっとこの違和感について考えていました。そして得たひとつの解釈。

 浦島太郎ですよ! 冒頭で、主人公がおせちの重箱を手にするシーン。まさに浦島太郎が乙姫から託された玉手箱に相当します。竜宮城から戻った浦島太郎の世界は何百年が経過していて、彼はひとりぼっちになった。孤独に耐え切れず浦島太郎は玉手箱を開けますが、彼はたちまちおじいさんになってしまいます。何故、玉手箱を開けたら歳を取るのか。それは箱のなかには「過去」が詰まっていたからです。

 では、本作の主人公が重箱のなかに詰めたものは何だったのか? 一恵が重箱のなかに見たものは、何だったのか?

 以上の点を踏まえて読むと、本作のテーマが「未来」ではなく「過去」でなければならない必然性が見えてきます。(作者さんの意図と別に読解してたらごめんなさい)

 

 ミステリーものですね。ネクタイが事件解決の「鍵」として首尾一貫していたことと、ラストでアクションシーンの盛り上がりがあった点は良かったです。ただ正直なところ、短編小説に詰め込むのはかなり難しいストーリーだったのではないかと……。(私的にはこれは長編小説にしても良いと思います)

 アドバイスとしては、「改行」を意識されると、読みやすさが格段に向上するかと思います。本作では500文字~1000文字で改行が入っています。小説ですと基本的には、200文字前後で改行を入れると文章が読みやすくなります。

 長文ですと、読者はシーンや文章のまとまりをどこで区切ったら良いのか、分からなくなってしまいます。改行を積極的に使うだけで、読みやすさはめちゃくちゃ上がります。

 あと本題とまったく関係ない話で恐縮なのですが、本文のフォントの色はもう少し濃い方が読みやすいです。(文字色が薄くて読めなかったので、Wordにコピペして作品読んでいました)

 はてなブログの「デザイン」→「デザインcss」という項目で

 .entry-content {color:#333333;}

 というような設定をしますと、本文の文字色を濃くできます。#333333の数値(カラーコード)を変更すると、好きな色に変えられます。(小説と関係のない話でほんとにすみません)

 ミステリーとなると、キャラクターもたくさん出てきますし、分かりやすく描き分けをするのはとても大変なことだと思います。(ましてや短編に収めるとなると……)

 ですがさまざまな個性的なキャラが登場するのは、作品の何よりの魅力です。また次回作を楽しみに待っています。

 

 読みやすいリズム感のある文体でした。(特に『ボク』文体の方)

 名前の出てくるキャラクターが10人近く登場するものの『ボク』『シホ』『ケイ』の3人で物語が進行していくため、とくに混乱はなく読み進めていくことができました。

(強いて言えば『ミホ』と『シホ』が似ているのでごっちゃになりそうだったこと。もうひとつは、シホのカレシの『ケンジ』は名前を出さないほうが分かりやすかったかなぁ……ということでしょうか)

 少し引用いたしますと、この部分の文章がやや気になりました。

数日後の夜、カレシであるケンジの家にボクらはいた。いつも皆でいる洋間である。一人がけの赤いソファにはボク、三人掛けにはケンジとシホが座っていた。シホはカレシとその小学生からの親友であるボクに話した。なんでボクなの。

第十五回短編小説の集いに参加します。「private eyes」です。テーマは過去です。 - 池波正太郎をめざして

  シホ→ボクへと、視点が変わる文章の冒頭部分です。

 この最初の段落では『カレシ』が『誰の』彼氏であるのかを読者は読解するのが難しいです。「(シホの)彼氏はケンジである。」と補って読めば済む話ではあるのですが、急に三人称から一人称へ視点が変わっているのも相まって、初読時は読み解くのが難しい。

(ケンジは物語のキーパーソンではないため、シナリオ進行上はまったく差し支えないものの『ケンジ』という名前を出してしまっている以上、読者はケンジを重要人物であると認識します。ケンジの存在がやや読解を難しくしており、いっそのこと『ボク』がシホの彼氏であったならば……とは感じます)

 ボク文体はユーモアがあり、非常に良かったです。ボクは良いキャラをしています。重箱の隅をつつくような指摘をしてしまいましたが、正直なところこれほどの(たくさんのキャラが出てきて、場面転換の多い)話を読ませてしまう文章表現技量には脱帽します。読みやすい文体です。

「オチ」に関しては、私は次のような予想をしていました。

「じつはシホが、私のほんとうの妹なの」

 さすがに……無理がありますかね。短編小説のオチはたしかに難しいです。本作は文章がとても楽しかったです。

 

 即興小説トレーニングの「お題&必須要素&15分縛り」で書かれた作品なのですね。最初、どうして芥川賞ではなくて直木賞の方にしたのだろうと疑問でしたが、その謎は氷解しました。(しかも単に「直木賞」のキーワードを入れるだけでなく、後から「芥川賞」と「ノーベル文学賞」とを絡めることで、縛りワードの直木賞にも必然性を持たせている。流石です)

 やはり大切なのは「必然性」なのだと思います。すべての描写に必然性があり、物語に一貫したテーマがあること。本作は描写に無駄がないです。

 小説を書くのは孤独な作業です。ひとりぼっちです。苦しいです。けれども、決して独りだけで書いているのではない部分もあります。人から人へ継がれゆくもの。過去から未来へ託されるもの。本作の「作家が作家を生み、作品が作品を生む」ように、私たちの紡ぐ小説も、他者と過去とが化学反応してできたドミノ倒しの一貫なのかもしれません。

 

即興小説トレーニングは小説のトレーニングツールで、私も愛用しています。15分縛りでは1作も完結させたことがないです。30分縛りでようやく1作完結。執筆の瞬発力を鍛えるには優れたツールです。おすすめです。

 

(終わり)

 

みんなでやろう! はてなハイク!!

魚崎とき

やほー! うちは、このブログの主人公、魚崎とき(うおざきとき)やでー!!

「ときまき!」のメインヒロインのはずやのに、まさか登場が2ヶ月ぶりとは……。

さておき、今日は「はてなハイク」っていう最新鋭にして大流行のSNSを紹介するで。

はてなハイクとは?

殺伐とした"はてな"における、たったひとつの癒やしのオアシス。承認執着に疲れきった旅人が足を運ぶその場所は、猫の写真で溢れた安らぎのセカイ。

はてなハイクの良いところは、その場で絵を描いて投稿できる《お絵描き機能》があるところ。うちも、お絵描きメインで投稿しとうで。参考までに、今までにはてなハイクに乗っけたイラストをポイポイ貼ってく。

ネコ

おはようさぎ

男の子

おやすみかん

おやすみカエル

おやすみネコ

おやすみバナナ

おやすみゾウ

おやすみときちゃん

おやすみクラゲ

こんな感じ! これらのイラストは、みんな「はてなハイク」の投稿画面で直接描いたもの。投稿画面には「ペイント」みたいなツールがあって、筆、塗りつぶし、水彩画、シンメトリー、カクカク、直線、消しゴムなどなど、意外と高性能なお絵描き機能が備わっているんやで。色もたくさんあるし「元に戻すボタン」で簡単に書きなおすこともできる。

はてなハイク投稿画面

 上が実際の投稿画面。《Haiku!》をクリックすると、イラストが投稿される。ちなみに【おやすみ】って書き込んでるのんが、はてなハイクの【お題 (キーワード)】なんや。表題部分に「おやすみ」って名前をつけて投稿すると、おなじ「おやすみ」というキーワードをつけて投稿した人と繋がることができる。(ツイッターで言うところのハッシュタグみたいなもん)

「おやすみ」は人気キーワードで、今までに累計で32万件投稿されたみたいやで。

ツイッターとの違い

はてなハイクとツイッターは似て非なるSNS。簡単にツイッターとの違いを説明するで。

1.はてなハイクのトップページから、みんなの投稿を一覧できる!

ツイッターみたいな利用者数の多すぎるサービスでは、全ユーザーの投稿一覧なんて追うことが不可能で、ふだんはフォローしてる人のツイートを見るんがメインやと思う。

せやけど、はてなハイクは過疎ってる小ぢんまりとしたほのぼの系サービスやから、トップページからみんなの投稿を見ることができる。まったく絡みのない知らない人からでも、ポイポイと星(はてなスター)がもらえたりする。ツイッターの「フォロー×フォロワー」よりもさらにゆるいフニャフニャな関係で、繋がることができるんやね。

2.星がもらえるのはいまや「はてなハイク」だけ!

ツイッターのフェイスブック化が著しい。ふぁぼスターが廃止され、いいねハートに変わってしまった。いまや、星をゲットできるSNSは、はてなハイクだけになってしまった。

うちも若かりし頃はαツイッタラーとして名を馳せた存在で、界隈ではファボイーター《星を喰らう者》として畏れられとった。ツイッターを追放された《星喰人―ファボクラウド》たちは、深い絶望と悲しみの果て、憩いのオアシス「はてなハイク」へと辿り着く。オアシスには、はてなスターが綺羅びやかに泳いでいる。

ところが、ハイクでは大量のスターを獲得することは意外と難しい。(1個か2個くらいならよく貰える)スター中毒者にとっては、ハイクは案外厳しい環境かもしれない。

増田にもこんな投稿があった。(恐ろしい恐ろしい……)

たしかにハイクは星集めの場としては向いていない。(ブログやブクマの方が貰いやすい)むしろ、星が欲しいよぉ!といった承認執着から遠ざかって、ほのぼのまったり心を癒やすための場がハイクなのん。(でも星は欲しい

3.はてなプロフィール画面で「ハイクちゃん」のアイコンが表示される

ハイクちゃん

はてなハイカーになると、はてなのプロフィール画面(ときまきさんのプロフィール - はてな)で、はてなハイクのかわいいアイコン画像がご登場。ささやかなコレクター欲求が満たされる(?)。メダルの方は、はてなハイクの投稿が7日を超えると貰えたはず。

他にも、うちの使いこなせていない機能がたくさんあって、例えばフォトダイアリーの写真にイラストを描き込んで投稿したり、動画を載っけたり、音声ファイルを載っけたり、IDコールを飛ばしたり、スターフレンドに返信を飛ばしたり、ブログパーツにして貼っつけたり、いろんなことができるみたい。

まとめ

個人的には、さくっとお絵描きできて、さくっと投稿できる。これが一番うれしい。ツイッターには、こんなに気楽にお絵描きできるシステムはないからな。

はてなハイクはもっと評価されていいと思うで。

みんなでやろう! はてなハイク!!

(終わり)

 

自分の頑張り具合を「定量的」に評価する

時巻エイ

  お久しぶり、と言って果たして伝わるだろうか。なにせ『僕』がブログに登場するのは3ヶ月ぶりなのだ。もしも読者のなかに「僕を憶えているよ!」という方がいらっしゃれば、今すぐにでもメロスとセリヌンティウスのような熱い抱擁を交わしたい。

 初めての方ははじめまして。僕は時巻エイ(ときまきえい)。3ヶ月前はフリーターだったけれど、今は専業でWebライターをやっています

執筆文字数を記録するとやる気がなくても書ける

 やる気を出す方法を考えるよりも、やる気を出さなくても何とかなる方法を考える方が、役に立つ。ライティングというのはクリエイティブなお仕事に見えて、その実80%は地道な作業(たんたんタスク)だ。モチベーションの維持が難しい。

 売れっ子ライターならば次々と舞い込んでくる仕事と「〆切」こそが原動力たり得るのだけれど、僕のようなヒヨっ子ライターは営業をかけなければ仕事が取れない。(つまり「原稿を書かなくても良い」状態を作るのが簡単。疲れたら営業をストップすればいい)

 とはいえ、そんなグータラな日々を続けていれば、貯金が底をつくのは時間の問題。未来も成長もない。やる気がでない日でも、ストイックに原稿を書き続ける方策が必要なのだ。書くことを習慣としなくては。

 そこで、編み出した方法がこれ。名付けて【レコーディング・ライティング

10月執筆文字数推移

 Excelでその日の執筆文字数を表管理して、月累計の執筆文字数をグラフとして出力している。10月の目標値は10万文字(赤い棒)

 結果として10月の総執筆文字数は10万2715文字で、何とか目標を達成した。グラフを見ると一目瞭然だが、10月上旬~中旬はほとんど書けない日が続いた。スランプだった。(25日の時点で4万文字しか書けていない)

 グラフをつけていてさすがに焦りを感じ、最後の1週間で怒涛の追い込みをかけた。レコーディングしていなければ、10月はダラダラしたままに終わっていたかもしれない。定量化(やったことを数値化して見えるようにしておくこと)は大切である。

 ブロガーさんは、広告収益やPV数を発表したがる。これは自身の成果を「定量化」して、モチベーション維持を図るのが目的なのかもしれない。

11月の執筆文字数推移

 ちなみに先月11月は、このような結果となった。

11月執筆文字数推移

 11月目標値は15万文字。総執筆文字数は15万2286文字。これも何とか達成。

 もしも「1文字単価2円」で仕事を請けていれば、月30万円ちょっとの収入である。「おっ、Webライターも案外悪くないじゃん!」と思われるかもしれない。しかし僕の場合は平均すると「1文字0.5円」程度なので、現実は月収入が10万円を下回っている

 繰り返すが、僕は副業ではなくて、専業ライターである。ついでに株式投資家でもあるけれど、負けてる……:;(∩´﹏`∩);: :;(∩´﹏`∩);: :;(∩´﹏`∩);:

 文字単価を上げるためには、努力して、もっと良い文章が書けるようにならなければいけない。頑張ろう。いや、頑張らなくても書けるように、頑張るのだ。

12月の目標は、20万文字!!

 さあ、年末に向けてラストスパートだ。

(終わり)

短編小説の集い 第14回「食」の感想

 短編小説の集い 第14回、テーマは「食」でした。

 簡単にではありますが、参加者さんの投稿作品の感想を書いていきたいと思います。

 ネタバレがあるため「まだ読んでないよー」という方は、上の投稿作品一覧から先に作品を読むことをおすすめします。

短評

 奥さんと旦那さんの人物描写が良かったです。

 積み上げられた本のなかに倒れてそれでもページを繰る手を止めない旦那さん。「今いいところなんだ、邪魔しないでくれ」と繰り返される言葉が、旦那さんの人物像に色濃く印象を与えます。

 旦那さんの「~邪魔しないでくれ」は作中に2回登場しますが、1回目の台詞では(嗚呼、奥さん気の毒に。旦那さんはきっと冷たい人なんだな)と読者に想像させる。そして2回目の台詞では(いやいや、旦那さんは純粋に本に夢中になっているだけの読書狂じゃないか)と認識を訂正させる。旦那さんがどんな人物であるかの説明の運びが、とても丁寧で分かりやすいと感じました。

 あと奥さんの心理描写はユーモアがありますね。「今いいところなんだ、邪魔しないでくれ」を勘ぐって、ほんとは夢中になっているのは本ではなくてよその女では?と疑ってみたり、本とスープとを対比させて(本は冷めないのだから先にスープを飲んでよ!)と思ったり、そういった奥さんの内面の描き方が面白かったです。

 オチは短編小説らしい、最後にフフッと笑わせてくれる後味の良い読後感です。

 SF!と思って読み進めていたのですが『航海日誌七日目』以降の驚きの急展開で、読後感としてはとってもホラーな感じの作品でした。ホラー大好きです。

 最後の一文は、なかなか余韻を残しますね。船が地球に到着し、人類がその《ギフト》と出会ったとき、それはもう人類滅亡の幕開けにすぎないのでしょう。

 ホラー作品として見た場合に、物語のスパイスとなっているのが「ハミングと音楽」個人的にはこのハミングの描写が醸しだす恐怖・不気味感というのは圧倒的だと感じます。こう、頭から葉っぱが生えたり、顔がだんだん真っ赤になっていったり、そういうのもビジュアル的には怖いのですが「ハミングを口ずさむ」というのは脳の内側から揺さぶられる《侵食》を意味しますから、そりゃもう恐ろしい。

 私たち人間は美味しい食べ物を食べて、幸せになりますし、身体の成分は「食べたもの」によって構成されます。換言すれば「食べものに侵食されている」わけで、そんなことを考えながら読んでいました。

『ケイ』は魅力的なキャラクターでした。主人公と一夜を過ごすシーンは、うまい感じにさらっと描写するなぁと。ケイが当初、フェーヤを偽造信号で操ることに反対するところなどは、彼女の《自由》に重きを置く思想が反映されていて、細かい伏線ではありますが丁寧だと感じました。

 ひとつ気になったのが『ティンカー』です。ティンカーは5日目以降は登場しないので、その後どうなったのだろう、と。ティンカーがちゃんと2人に警告してくれていれば惨劇は防げたのでしょうが、科学の結晶たる優秀な頭脳も『人間の自由への飽くなき欲求』までもは止めることができなかったようです。

 実際のカボチャ料理の描写に絡めて、カボチャをメタファーとして用いた会話が続き、ふむふむなるほどと思いながら読み進めていました。とくに、3段落に渡って描かれている「カボチャのポタージュ」「パンプキンパイ」「カボチャのプリン」ですね。これはヨダレが出てきそうな美味しい描写で、勉強になりました。

 カボチャといえば、よく大勢の前でスピーチをしなければならない緊張するシーンで『聴衆をみんなカボチャだと思え!』みたいに言いますね。作中の主人公は、対人恐怖が重く、カボチャでさえも人の顔に見えてきて薄っすらとした恐怖を覚えてしまう。私もどちらかと言えば神坂茜タイプの人間なので、彼女には共感します。

 ところで、最後の方でびっくりしたのですが、乾さん『私が彼を退職させましたから』ってさらっとスゴイ発言をしている……。乾さんも会社で懸命に戦っていたのだなぁと感じました。

 テーマ「食」の切り口が斬新だったことと、あと《食通の客》がかっこ良かったです。料理の注文の仕方で食通であると《解る》というのは、初めて知りました。

 私はフランス料理店は行ったことがなく、テーブル・マナーもメニューもまったく分からないのですが(フランス料理を訊かれて『エ、エスカルゴ?』とかろうじて答えられるくらい)、なるほどそういう世界もあるのだなぁ、と興味をそそられると共に、美食家への憧憬の念を感じるところです。

 作中では「店主が美食家の前に、まず食前酒のリストを広げたこと(それを店主は失礼な振る舞いをしたと恥じている)」「訪れた客が、食前にコーヒーを注文している(フルコースのコーヒーは食後だと思っていました)」この2つの、繋がりのある描写がいわゆる《通にしか解らないセカイ》なのだと感じ取りました。いやしかし、注文票を見ただけで相手の食通レベルがわかる、というのは面白いです。

「食客(しょっかく)」は意味を知らなかったので辞書を引きましたが、なるほど、勉強になりました。面白い切り口です。描写が丁寧で、リアリティのレベルの高い作品でした。

 ミスリードした箇所がいくつかありました。冒頭から七段落目まで語り手(私とボクが混在?)の年齢を16~18歳程度と思い込んでいたこと、『シホ』を小~中学生くらいだと思い込んでいたことです。(シホの、ビールと口紅の描写のくだりで、各登場人物の年齢を誤読していたことに気が付きました)

 祖父がタクシーを運転していて『先生』と出会ってからのエピソード。とても引きこまれまして、ドラマを見ているような感覚でした。バックミラー越しに為される会話と車内の空気が、こちらにも伝わってきました。物語としては長編にもできそうで、続きがあるならばもっと読んでみたいなと思える読後感です。

 恋、ですね。どこか読んでいて緊張感の走るような、静かであるのにドキドキとする描写です。『私』が水羊羹を食べる姿は描かれていましたが、『先輩』が水羊羹を食べる描写はないため、先輩が水羊羹をどのように味わって食べていたかは想像するところです。

 お嬢さんの心をこめた隠し味に気づけるのが、先輩ではなく私だという点が切ないですね。時代としては昔の話ではあるものの、想起されるのはバレンタインのチョコレートで、今も昔も恋は変わらず。

 人物の象徴としては

  • 私→柘榴の実(甘酸っぱく/やがて木とは離ればなれになる)
  • 先輩→柘榴の木(逞しく/鈍感で)
  • お嬢さん→水羊羹(純真に一途で/先輩には味が届かず)

 と私は解釈しましたが、このようにさまざまな想像をさせる書き方が良かったです。

 自作品。

 三人称文体を克服するひとつのきっかけが掴めたと感じています。

 上達を目指したいです。

 読みやすかったです。

 ナイフとフォークを使って食べる魚料理…! これはいきなり出されたら悩みますね。(フォークで骨とかどうやって取れば……)

 せっちゃんの家での体験談がメインですが、それに対する主人公のものの捉え方(フカシ芋で十分だ、ワインの話、寝るときの話…etc)で、主人公のふだんの家庭環境が明確な解像度を伴って浮かび上がります。

 最後、主人公は歳を取っていて、遠い過去を回想する形であったことがわかります。積み重なる人生のなかでさまざまな出来事があり、ビスケットを見るたびに主人公はその記憶を思い出して、ほろ苦い感傷に耽っていたのかなぁと感じるところです。

 

(終わり)

たんたんタスクがやってきた(黒歴史ポエムの公開処刑所)

月波ツカサ

たんたんタスクがやってきた(作・月波ツカサ)

たんたん たたたん

たんたんタスクがやってきた

ことばを つむぐよ たんたんタスク

 

淡々と、坦々と、ただキーボードを押すだけさ

たたたん、かたたん、簡単タスク

思考、感情、いらないよ、言葉がどんどん降ってくるもの

ぽんぽん、ぽぽぽん、本気でタスク

 

さあうたえ! おどれ! お気に召すまま!

キーボードを舞うタランチュラ!

 

たんたんタスクは終わらない、きりきり〆切迫ってる

やるべきことは、たんたんと、手を動かすしかない、納期が来るぞ

時速五千字、日速五万字、徹夜はイヤだよ、ねむねむタスク

 

はっ……僕はいったい何を書いているのだ

自分は果たしてナニモノで、此処はイズコで、今はナンジだ

 

書かれた刹那、《思考》は命を失った

屍体は《言葉》、原稿用紙に磔にされ

読まれた言葉、新たな思考の胎児となる

書くこと読むこと、死と再生の繰り返し

 

生きるために書き、書くために生きる

喜び、悲しみ、苦しみ、怒り、すべてを喰らって言葉にするんだ

現実も虚構も、理想も自虐も、みんなみんな呑み込んでしまえよ

とかくこの世は、狂気だ、凶器だ

ひらりひらりと言葉をかわし

ぬらりと近づき一刺しだ

混沌に消える

 

たんたんタスク、笑った笑った

腹をかかえて、言葉をぷくぷく

身をよじってでも絞りだすのだ

 

文字数足りない? 装飾過剰で!

クオリティ低い? リライトします!

拡散されたい? 燃やせ燃やすぞ大炎上!

文才ほしいの? レトリック&レトリック!

 

たんたんタスク、泣いた泣いた

生きるの辛いよ虚構に生きたい

頭抱えてでも、ひねりだすのだ

 

指示語が多すぎ? あれをこうして!

より具体的には? メタファでごまかす!

主語が大きい? まったく最近のニンゲンは!

受賞したいの? 書いて、書いて、書きまくれ!

 

たんたんタスク、かたたん、かたたた

記事を量産、かたたた、たかたた

がたが怖いね、腱鞘炎

たたた、たたかい、〆切に勝つ

自分に負けるな、たんたんタスク

 

たんたん たたたん

たんたんタスクもおわりがくるさ

ポストに入れれば、投稿完了

エンター押せば、納品完了

 

書かれた言葉はわたしを抜けて、ふわふわと風船のように飛び立つの。相手の心にたどり着く、わたしの言葉。でもそれはわたしではなく、わたしに似ているオバケみたいな。

ことばの亡霊、こころの幽霊。

ネットの海をふらふらさまよう、魂たくさん吸っちゃって、言葉に酔うの、むさぼり食うの。

 

たんたんタスク、タスクは終わり

眠るじかんだ、きょうもおやすみ

 

(終わり)

恋する少女(はてな題詠「短歌の目」第9回11月)

 はてな題詠に初参加いたします。よろしくお願いします。

 今回、個人的に設定したテーマは『恋する少女』秋といえば恋の季節(遠い目

tankanome.hateblo.jp

 

1. シチュー

お返しにホワイトシチュー持ってきた女子力高いカレシがいたの

 

2. 声

「好きだよ」と告白された声録ったボイスレコーダー音質わるい

 

3. 羽

ねぇキミも恋をしたから壊れたの? 羽の千切れた蝶の亡き骸

 

4. 信

ほっといて! さわらないでよ! あっちいけ! ニンゲン不信、あたしサボテン。

 

5. カニ歩き

うさぎ跳びくるりまわってカニ歩きダイエットする姿見られた

 

6. 蘭

元カレがくれた紫蘭の花言葉「変わらぬ愛」ってそんなの知らん
※紫蘭(しらん)

 

7. とり肌

壁ドンをしてきたカレシ、二の腕がとり肌立ってプルプルしてた

 

8. 霜

クール系彼氏はいつも冷たくて私のこころ霜焼けしちゃう

 

9. 末

流れ星、見ながら抱いて愛しあう。今日はふたりで終末デート。

 

10.【枕詞】ひさかたの

ひさかたの月を真紅に染めたのはアナタの嘘でアタシの愛よ

 

ありがとうございました。

(終わり)


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